プロダクトエンジニアの存在は豊かな社会につながる
さて、丹羽氏の所属するアセンド株式会社は、需要の3分の1の荷物が運べなくなる「2030年問題」へのソリューションとして、トラック運送会社向けのAll-in-One SaaS「ロジックス」を開発・展開している。このサービスは配車業務や請求、点検など異なるドメインを扱う複数のプロジェクトを提供し、業務の効率化と経営の高度化を同時に実現するものだ。
ロジックスでは、運行・労務・請求・車両・経営の5つのドメインを取り扱っているが、法律の知識や専門資格などが求められる「深い」領域において、1人のプロダクトマネージャーだけで対応することは困難を極める。そのため各領域にエンジニアを配置し、プロダクトマネジメントの一部を担いながら開発を進めていく必要がある。
「コア人数が少ない中で一つのプロダクトを持つためには、開発生産性への投資が欠かせない」と説明する丹羽氏。投資対象として、オンボーディングの徹底やメンバー間での権限移譲を行う「オーナーシップ」、現場訪問やBiz-Prdとの連携などからなる「ドメインへの理解」、MVPやChatOpsなどからなる「迅速な仮説検証」を挙げた。
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とくに迅速な仮説検証においては、フルスタックTypeScriptを選択することで技術を平易にし、エンジニアのフルスタック化を進めていると紹介。ChatOpsにおいても、「思い立ったらすぐにStackでリリースできるようなCICD基盤を初期から整備しており、1日平均5回のデプロイを実現し、日々顧客に価値を届けることもやっていた。そういったイテレーションの速さが、プロダクトエンジニアが活躍できる土台になっている」と振り返った。
こうした取り組みを進めるなかで、「プロダクトエンジニアがいればPMはいらないのか」という疑問を投げかけられることもある。丹羽氏は「絶対にPMは必要」としたうえで、PMは3種類に分けられるとした。
1つ目は従来のPMで、アセンド社においては事業やマーケット全体を俯瞰して課題を整理し、優先すべき顧客課題をミッションとして策定することがその役割だ。
2つ目は仕様品質の担保とメンバー育成を担うLead PdMで、ソリューションの水準を引き上げてプロダクトの品質をより高いものにしたり、メンバーを育成して組織全体の開発力を向上させたりといった活動を行う。
3つ目は仕様策定・機能開発の推進を行うMember PdMで、全体に対してオーナーシップを持つことで、関係者を巻き込みながら顧客への価値提供を行う役割を持つ。丹羽氏は「この推進力こそプロダクトエンジニアの肝」だとしたうえで、「こうした働きがメンバーの成長になる。スイムレーンを増やすことで、事業価値にもつながる」と語る。
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「エンジニアは社会を豊かにできる仕事。ともに志を持ち、プロダクトを社会に実装していきましょう」と熱弁する丹羽氏。あわせて自ら運営するプロダクトエンジニアコミュニティを紹介したうえで、講演のまとめとして「プロダクト思考をもって、顧客課題の解決を中心とした開発をしていきましょう。そして技術・デザイン・事業の3領域を積極的に越境して価値を最大化し、そしてオーナーシップとドメインへの好奇心も大切にしてプロダクト開発を楽しんでいただきたい」と総括した。