生成AI時代のスキル面接はどこを見ているのか?
高柴氏はエンジニアとしてキャリアをスタートし、サービス開発への関心からプランナーに転じ、エンジニアやデザイナーと協力してきた。コマースメディアの事業責任者を経て、エンジニアのスキルを可視化するコーディング試験サービスを提供するハイヤールーに参画。「採用のミスマッチを防ぐサービスを展開しており、私自身も学びながら企業に提供しています」と語る。

RevCommは、電話やビデオ会議の会話を解析するAIを提供する企業であり、瀬里氏は同社の黎明期から開発組織に所属し、エンジニア採用や組織づくりを担いながら、組織を100名規模に拡大してきた。生成AIの普及によりソフトウェア開発環境が大きく変化する中、RevCommでも一般的なAIツールに加え、社内独自のAIを活用している。瀬里氏はその一例として「エンジニア組織には約20名の外国人メンバーが在籍しており、円滑なコミュニケーションを図るためにSlackの投稿を自動翻訳するツールを開発するなど、AIの活用を積極的に進めています」と説明する。

高柴氏が「AIによって生産性が向上する中で、求められるスキルには変化があるのでしょうか」と尋ねると、瀬里氏は「エンジニアに求められるスキル自体は大きく変わっていません」と答えた。AIを活用するからといって、基本的な技術力に対する要求は変わらない。むしろ、AIという新たなツールを使いこなす力に加え、エンジニアとしての判断力や理解力の重要性はこれまで以上に高まっているという。
続いて話題はRevCommのエンジニア採用プロセスに移った。同社では、カジュアル面談、コーディングテスト、一次面接、最終面接の4つのステップを設けている。まず、カジュアル面談では会社の紹介を行い、候補者の特性を把握する。

コーディングテストでは部署やプロジェクトの特性に応じて内容を調整する。「カジュアル面談で候補者の適性を見極め、最適な職種を判断した上でテストを設定しています」と瀬里氏は説明する。テストは主にコーディング課題とシステム設計課題の2種類を中心に実施する。
コーディングテストにおいて、最近ではAIが生成したコードをそのまま提出する候補者もいるという。瀬里氏は「AIのコードをコピペすること自体は問題ありません。ただし、自分で説明できることが最も重要です」と話す。たとえAIが生成したコードであっても、その意図や構造を理解し、チームメンバーに説明できる能力が求められる。
コーディングテストの評価について、瀬里氏は「点数だけを見て不合格にすることはほとんどありません」と語る。すべてのコードの中身やコメント、システム設計の進め方まで細かく確認し、一次面接官とともに強みや課題を分析する。
評価の際に特に重視しているのが、コードの命名規則やコーディングスタイルだ。「変数の付け方一つで、これまでの経験がかなり見えてきます」と瀬里氏は指摘する。例えば、PHPやPythonなど、それぞれの言語仕様に沿った適切な命名ができているか、チーム開発を意識した書き方になっているかなどが、実務経験や開発への姿勢を示す重要な指標となる。ハイヤールーでは、「HireRoo」を用いたコーディングテストの結果を活かして一次面接を実施することを「スキル面接」と呼び、技術面・スキル面をより適切に測ることができるようになるとしている。
システム設計に正解はない。ではどこを評価すればいい?
高柴氏は、システム設計の課題を通じて候補者の実力を見極める方法について、「ブログ記事を時系列で配信するサイトのシステム設計」を例に挙げ、瀬里氏に質問した。
瀬里氏はまず、ユーザー、サーバー、データベースというシンプルな構成について「これも正解です」とコメントした。課題に速度要件やユーザー数の条件が明示されていない場合、こうした基本的な設計も適切な回答となる。「この時点で落とすのは簡単ですが、それだけで判断するのはもったいない」と指摘し、競争の激しいエンジニア採用において、有望な候補者を早々に見送るのは得策ではないと語る。
次に、より複雑な回答として、Amazon CloudFront、AWS Lambda、Amazon S3、Amazon DynamoDBなどのAWSサービスを活用した構成も示された。瀬里氏は「これも正解です」と述べ、このような回答からは、開発経験の深さやクラウドサービスへの理解度がうかがえると説明した。


RevCommのエンジニア採用の特徴は、コーディング試験の正誤を即座に判断せず、そこからさらに対話を深める点にある。先のようなブログサイトの設計の課題に対し、面接時には「500ミリ秒で応答するにはどうするか」「ユーザーが1000万人になったらどのようにスケールさせるか」といった具体的な条件を加え、候補者の思考プロセスを掘り下げる。このやり取りを通じて、柔軟な対応力や問題解決能力を見極めていく。
このため、コーディングテストの評価プロセスでは、瀬里氏に加え一次面接を担当する部署のリーダーや部長クラスのメンバーも参加する。「この部分をもっと深掘りできるのではないか」「どの点を重点的に確認すべきか」といった観点で議論を重ね、面接での質問項目を決めていく。特に重視しているのが説明能力だ。「なぜこの設計を選んだのか、それを明確に説明できることが重要です」と瀬里氏は強調する。チーム開発では、自分の考えや設計の意図を的確に伝えるスキルが不可欠であり、どんなに優れた設計でも、チームメイトに説明できなければプロジェクトの進行に支障をきたすからだ。
このように質問を重ねて深掘りするスタイルは、「HireRoo」を用いたスキル面接があるからこそ成り立っている。以前は職務経歴書をもとに面談を進めていたが、瀬里氏は「職務経歴書から話題を見つけるのは大変でした」と当時を振り返る。スキル面接の結果があれば、面接官の負担を軽減しつつ、実際の業務に近い課題について深く議論できるため、入社後のミスマッチを防ぎやすくなる。
技術力・思考プロセス・文化、三つの軸でミスマッチをなくす
高柴氏は、エンジニア採用において評価すべき要素として、ハードスキル、ソフトスキル、カルチャーマッチの3つを挙げ、「特にソフトスキルの評価は見落とされがち」と指摘する。ソフトスキルとは、思考プロセスや仕事の進め方、コミュニケーションの取り方などを指し、技術力であるハードスキルと異なり、明確な基準を設けにくい。そのため、採用後に「仕事の進め方が合わない」「コミュニケーションに課題がある」といった問題が蓄積し、組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことも少なくないという。
RevCommではこのような課題に対応するため、採用プロセスの各ステップで3つの要素をバランスよく評価できる仕組みを構築している。一次面接ではテックリードが面接官を務め、ハードスキルとソフトスキルの確認に重点を置く。最終面接では役員クラスが担当し、カルチャーマッチを見極めることで、技術力だけでなく、企業文化に適応できる人材を見出している。
ハイヤールーでは、ハードスキルやソフトスキルの評価をより効率的に行えるよう支援している。高柴氏は「Google、Meta、Microsoftといったビッグテックの採用プロセスは非常に優れていますが、実施するのは簡単ではありません。面接官のトレーニングだけでも2~3週間かかることもあります」と説明する。同社のサービスは、高度な採用プロセスを手軽に導入できる点が強みとなっている。
特に注目すべき機能が「プレイバック」だ。これは、コーディング課題などの入力プロセスをすべて記録し、コピー・ペーストの有無や試行錯誤の過程まで把握できる仕組みである。この機能について瀬里氏も「短時間でテストが終わる場合もあるため、必ず見ています」と話した。

さらに、近々リリース予定の機能では、課題に対する回答パターンごとに、面接官がどのような質問をすべきか、どの観点で評価すべきかを自動でレポート化する。高柴氏は「経験の少ない面接官でも、適切に深掘りできるようになります。この機能を活用することで、採用プロセスの属人化を防ぎ、『スキルを正しく評価できていないのではないか』という不安も解消できると考えています。選考に課題を感じている企業には、ぜひご検討ください」と呼びかけた。
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