VS CodeとAIエージェント「Cline」が変える開発風景
セッションの中盤では、実際に刷新された開発環境を用いたデモンストレーションを紹介した。鈴木氏はVS Code上で、自律型AIエージェント「Cline」を用いたPL/Iプログラムの実装プロセスを実演した 。
デモの中で鈴木氏はまず、銀行固有のコーディングルールや構造化プログラミングのガイドラインをClineに学習させた。続いてリポジトリ内の既存ソースコードを読み込ませて実装パターンを把握させた上で、「Syslogから特定のメッセージIDを検索して出力するバッチプログラムを作成せよ」という自然言語の指示を与えた。するとAIエージェントは即座に要件を解析し、変数の定義から処理ロジックまでを含んだPL/Iコードを生成し、VS Code上のファイルとして出力してみせた。
コード生成後のビルドプロセスも完全にモダン化されている。TSOに切り替えることなく、VS Codeのメニューから「IBM User Build」を実行すると、Gitで管理された変更分のソースのみがメインフレームへ転送される。裏側ではIBM Dependency Based Build(DBB)とGroovyスクリプトが動作してJCLを自動生成し、コンパイルを実行する。エンジニアはローカルPC上のIDEから離れることなく、メインフレーム上のアプリケーションを開発・ビルドできるようになったのである。
検証で見えた現実と「インプット整備」の重要性
検証の結果、生成AIによる仕様書からPL/Iコードへの変換は90%超の精度で可能であることが確認された。しかし鈴木氏は、AIを手放しで称賛するのではなく、検証で明らかになった現実的な課題についても率直に語った。デモ動画では、AIが生成したコードにプロシージャ定義の誤りが含まれており、コンパイルエラーが発生する様子が包み隠さず示された。エラー内容はVS Code上に即座にフィードバックされ、エンジニアがその場で修正を行うことでビルドを成功させた。
このプロセスを通じて強調されたのは、「インプット資料の整備」がいかに重要かという点である。AIの出力品質は、与えられる指示やルールの明確さに依存する。コーディングルールや設計書が曖昧であれば、AIの生成物もまた不正確なものとなる。鈴木氏は、AIを有効活用するためにはドキュメントの質を高めることが不可欠であり、今後は「PL/Iコードからの仕様書生成」や「テストコードやテストデータの自動生成」へと適用範囲を拡大し、AIエージェントの可能性をさらに広げていく展望を語った。
