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Developers Summit 2025 Summer セッションレポート

巨大決済基盤の技術的負債にどう立ち向かうか──DMMが実践した段階的移行戦略

【17-B-5】DMMを支える決済基盤の技術的負債にどう立ち向かうか

 どれだけ事業を支えてきた基盤システムでも、いつかレガシーとして技術的負債の源となる。しかし、新機能開発を優先するあまりに対応が後回しになり、改修コストや障害リスクが積み上がっている現場も珍しくない。この「混沌」を構造的に可視化し、段階的移行戦略として実装まで導いてきたのが、DMM.comの藤井善隆氏だ。本セッションでは、巨大な決済基盤を止めずに刷新するために藤井氏が採用した実践的アプローチが語られた。技術的負債という避けて通れない課題を、いかに価値ある組織変革へと転換していくのか。その手がかりを探る。

60事業を支える決済基盤の技術的負債と向き合う理由

 合同会社DMM.comで決済基盤部門のリードエンジニアを務める藤井善隆氏は、急拡大する多事業体を支える巨大基盤のモダナイゼーションを牽引してきた。長年の成長と継ぎ足しによって複雑化したレガシー基盤に正面から向き合い、再構築を進めてきた。

合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部 第2開発部 購入グループ・サブマネージャー 藤井 善隆氏
合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部 第2開発部 購入グループ・サブマネージャー 藤井 善隆氏

 DMM.comのサービスの歴史は1998年の創業期にまで遡る。現在の決済基盤に残る最古のコミットは2013年頃のものだが、それ以前のアーキテクチャ思想やサービス要件が地層のように影響を残し続けているという。設計はモノリスではなくマイクロサービスアーキテクチャを採用しているものの、実態はPHP、Go、Java、Scalaが混在し、インフラ自体もオンプレミス・EC2・ECS・EKSと時代ごとに変遷を重ねてきた。

 加えて、60を超える事業を単一の決済基盤が支える構造が、複雑性をさらに押し上げた。事業ごとに異なる要件が累積し、依存関係も拡散。障害発生時には広範囲に影響が波及してしまう。藤井氏のミッションは、この「混沌」に秩序を取り戻すことだった。

 藤井氏がまず着手したのは、改善戦略の策定だ。3〜5年という中長期的な視点で、現状把握と課題の言語化に徹底的に時間を投じた。採用したのは、「As-Is」「To-Be」「課題(Why)」「打ち手(How)」「バックログ(What)」という改善フレームワークだ。

藤井氏が採用した改善フレームワークは、混沌としたシステムを可視化し再制御するための基盤となっている
藤井氏が採用した改善フレームワークは、混沌としたシステムを可視化し再制御するための基盤となっている

 As-Isの分析により、サービス間の複雑な依存関係、障害時の影響範囲の大きさ、そして担当者によって認識が異なる暗黙知の多さなどが可視化された。一方、To-Beではドメインモデルに基づく疎結合なアーキテクチャ、リアクティブシステムによる高い障害耐性、さらにはSRE文化が根付いた組織といった理想像が描き出された。

 しかし、理想を掲げただけでは変革は進まない。負債返済は日常の開発業務と並行して進めるため、現実的かつ実行可能なロードマップが必要となる。そこで藤井氏が採用したのが、スクラム開発でも知られるEBM(Evidence-Based Management)だ。不確実性の高い環境で、経験と定量指標に基づいて価値創出を最適化するフレームワークである。

 藤井氏はEBMをもとに、改善活動を推進するためのゴールを三つの階層へと整理した。最上位には「戦略的ゴール(3〜5年)」を据え、基盤モダナイゼーションの完遂と、SREに基づく改善サイクルが自律的に回る姿を定義した。

 続いて「中間ゴール(四半期・期末)」では、戦略を具体的なマイルストーンへと落とし込み、節目ごとに到達すべき姿を設定した。さらに「即時戦術ゴール(スプリント)」では、1〜2週間単位で達成できる短期成果を積み上げ、日々の開発と長期戦略を地続きにする仕組みを構築した。

 こうして遠くにある理想像と、現場がいま取り組む作業とが一本の線で結びつき、チーム全体に共通の視界が生まれた。

 その上で不可欠となるのが、ステークホルダーへの説明責任である。技術的負債の返済は、新規機能のように即座に売上へ寄与するものではない。そのため「その取り組みが何をもたらすのか」という問いに対し、「市場価値の直接的向上ではなく、組織の能力(Capability)を底上げする行為である」と明確に説明する必要があった。

 技術的負債を返済することは、将来の開発速度・品質・安定性を支える基盤への投資にほかならず、ビジネス継続性に直結する取り組みだ。この共通認識を持つことが、藤井氏がプロジェクトを推進する上での前提条件だった。

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複雑性を構造化し、堅牢なアーキテクチャへ刷新する

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

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丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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