株式会社セールスフォース・ジャパン(以下、セールスフォース)は2026年1月20日、都内でプレス・アナリスト向け説明会を開催し、Slackで利用できるパーソナルエージェント「Slackbot」の国内提供開始を発表した。
「Agentic Enterprise」の入り口としてのSlack
説明会の冒頭、株式会社セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏は、今年度の同社の戦略として「エージェンティック・エンタープライズ」というキーワードを提示した。これは、AIが人間を代替するのではなく、人とAIエージェントが協調して働き、人間の能力を拡張させるという概念だ。三戸氏は、これを実現するためのプラットフォームとして「Agentforce 360」を紹介した。Agentforce 360は、CRMアプリケーション、データ基盤である「Data 360(旧Data Cloud)」、そしてAIエージェントの3層で構成されており、これらが統合されることで、企業内のあらゆるデータを信頼性の高い状態でAIが活用できる環境が整う。
三戸氏は、このAgentforce 360のエコシステムにおいて、Slackが「入り口」としての役割を果たすと強調した。顧客、従業員、データ、そしてAIエージェントをつなぐ接点こそがSlackであり、そこで人間とAIが自然な会話を通じて業務を遂行する姿こそが、同社が描く未来のワークスタイルである。グローバルではすでに数千社がこの変革に着手しており、日本市場においてもこの流れを加速させる起爆剤としてSlackbotが投入されることとなる。
業務コンテキストを理解し、アクションにつなげる
続いて登壇した同社 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャーの鈴木晶太氏は、Slackが単なるコラボレーションツールから「Agentic Work OS」へと進化している現状を説明した。鈴木氏は、現在のビジネス環境におけるAI活用の課題として、AIツールが業務フローから分断されている点と、AIがユーザーや企業のコンテキスト(文脈)を理解していない点の2つを挙げた。多くの従業員は、業務アプリケーションとは別のウィンドウで生成AIを立ち上げており、その都度、背景情報をプロンプトに入力する必要がある。
Slackbotは、これらの課題を解決するために開発された「仕事のためのパーソナルエージェント」である。鈴木氏によれば、Slackbotの最大の特徴は「コンテキストの理解」にある 。Slack上での会話の履歴、参加しているチャンネル、共有されたファイルなどの情報を踏まえ、まるで長年連れ添った同僚のようにユーザーの意図を汲み取って回答する。さらに、SalesforceのCRMデータやGoogle Drive、Boxといった連携アプリケーションのデータも横断的に検索・参照が可能だ。これにより、ユーザーはツールを切り替えることなく、Slackという単一のインターフェース上で情報の検索から要約、コンテンツ生成、そしてアクションの実行までを完結させることができる。
鈴木氏はデモンストレーションを通じて、Slackbotの具体的な挙動を紹介した。デモでは、Slackbotのローンチに向けたマーケティング戦略を立案するシナリオが実演された。ユーザーが特定のプロジェクトチャンネルの内容要約を依頼すると、Slackbotは議論の主要ポイントを整理し、次のステップを提案する。さらに、「この四半期に注力すべき顧客リスト」の作成を指示すると、Salesforce上の商談データとSlack内の会話情報を組み合わせ、インダストリーごとのターゲットリストを作成し、それを「Canvas」と呼ばれるドキュメント形式に出力してみせた。
これまでの検索ツールやチャットボットとの決定的な違いは、この「アクションへの接続」にある。単に答えを返すだけでなく、営業チームへの共有用資料を作成したり、会議のスケジュール調整を行ったりと、具体的な業務プロセスを前に進める役割を担う。鈴木氏は、Salesforce社内でも「Customer Zero(最初の顧客)」として全社員がSlackbotを活用しており、中には週に20時間もの業務時間を削減した営業担当者もいるという事例を紹介した。Slackbotは、ユーザーのトーンやスタイルも学習するため、利用すればするほどパーソナライズされ、精度の高いエージェントへと成長していく。
企業の「OS」として機能するSlackbot
株式会社セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 Slack本部 Head of Slack Japanの浦和広氏は、SlackbotをスマートフォンのOSになぞらえて解説した。スマートフォンの中に無数のアプリが存在していても、OSがそれらを統合的に管理しているように、企業内には多種多様なSaaSやデータが存在する。Slackbotは、企業の「OS」としてそれらすべてを見通し、ユーザーに必要な情報を必要なタイミングで提供する存在を目指している。浦氏は、社内の営業部門での活用例として、複雑な製品知識を即座に引き出して顧客対応を行ったり、インサイドセールス部門が複数の営業担当者の空き時間を瞬時に調整したりする様子を紹介し、その効果が個人の効率化にとどまらず、組織全体のスピードアップに寄与していると述べた。
メルカリに見る「同僚としてのAI」と共存する未来
会見の後半では、先行パイロットユーザーとしてSlackbotを活用している株式会社メルカリから、AI Agent Platform & Solutions Directorの小泉剛氏が登壇し、浦氏との対談形式で活用実態を語った。メルカリでは、Slackを単なる連絡ツールではなく、デジタル上の「オフィス(職場)」そのものと位置づけている。小泉氏は、Slackbotの導入について「新しい世界の同僚が生まれた感覚」と表現した。従業員は資料作成や情報収集の「初速」を上げるためにSlackbotを活用しており、ゼロから物事を考えるのではなく、まずはSlackbotにドラフトを作らせたり、要約させたりすることで、業務全体のスピードを向上させているという。
導入にあたってKPIを設定しているかというテーマに対して、小泉氏は「AIは今後、仕事の前提となっていくインフラであり、KPIを設定して効果測定を行うこと自体がスピードを阻害するリスクになる」と指摘した。実情としては、問い合わせ対応時間の短縮や情報検索の効率化といった定量的な効果は自然と表れており、コスト削減にもつながっていると付け加えた。
小泉氏は今後の展望として、現在は人間が能動的にSlackbotに話しかけることで業務が進むが、将来的にはエージェントが自律的に社内の課題を発見し、「これをやっておきましょうか?」と人間に提案してくる世界を描いた。
「Slackbot」は2026年1月20日より、日本国内のBusiness+およびEnterprise+プランのユーザー向けに段階的に提供が開始される。
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近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)
株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...
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