行政の現場主導で始まった「生成AIプラットフォーム」の開発
そんな橋本氏だが、当初から生成AIが正式な業務テーマとして与えられていたわけではない。GovTech東京に参画した当初に担当していたのは、自治体Webサイトの解析や改善といった領域だったという。
転機となったのは、区市町村のデジタル化を支援する伴走支援業務だ。各種アンケートや現場との対話を通じ、「これだけ生成AIが話題になっている以上、自治体側から何らかの支援要望が出てこないはずがない」という確信を得た。橋本氏は、上長に対して生成AI活用支援の必要性を直訴。その結果、正式なプロジェクトではないものの、AIに関する取り組みを進めるための「準備室」的な立ち回りがスタートした。
橋本氏は次に、仲間探しに動いた。区市町村DXグループの中に、行政出身でありながらAIに強い関心を持つメンバーがいたことは心強い後押しとなった。その人物が語った「もともと所属していた役所にAIを活用できる環境があれば、どれだけ仕事が楽になったか」という言葉は、橋本氏にとって大きな確信につながった。
AI活用に関するスポット的な相談をいくつか受ける中で、自治体側の反応は「決して悪くなかった」と橋本氏は語る。法改正時の条文チェック支援や、自治体Webサイトの文章を読みやすく整えるといった具体的なユースケースも少しずつ生まれていった。こうした小さな成功体験の積み重ねが、「これは現場で使われる」という手応えを強めていった。
やがて議論は、「個別に作る」のではなく、「プラットフォームとして共有する」という発想へと進んでいく。その中で浮上したのが、生成AIアプリ開発ツールである「Dify」の活用案だ。複数のLLMを選択でき、ノーコードでアプリを構築できる点は、自治体の環境下でも現実的な選択肢に映ったという。マルチテナント対応のエンタープライズ版を活用すれば、自治体横断でのアプリ共有も可能になる。こうした構想を受け、GovTech東京として正式にプロジェクトチームが組成され、予算やインフラ面の道筋が立てられた。
とはいえ、状況が一気に楽になったわけではない。前例のないサービスをどのような手順でリリースすべきかも手探りの状態が続く。技術選定の妥当性検証、複雑なステークホルダーとの合意形成、限られた時間とリソース。そうした課題をすべて抱えながら、「2025年4月のトライアル開始」という目標に向けて、現場主導で走り続ける日々が続いた。
橋本氏は「『なんとかする』という気持ちと、『なんとかなっている』状態は決して同義ではない」と振り返る。それでも、誰かが動かなければ前には進まない。その覚悟こそが、生成AIプラットフォームの立ち上げを突き動かした。
