「強制しない」アプローチで育む共創の文化
LeSSの原理原則はシンプルだ。チーム単位で分けるのではなく、あくまでも1つのプロダクト、1つのバックログ、1つのプロダクトオーナーで扱う。透明性を確保し、観察事実に基づいてプロセスを適応させる経験主義であり、判断軸はあくまでも顧客に届ける価値とする。役割やプロセスを増やすことなく、規模が大きくなっても「スクラムはスクラム」に帰着する。
LeSS導入後、組織にはいくつもの変化が起きた。チームごとに異なる判断をしていた優先順位は、1つのバックログで揃うようになった。特定のシニアに集中していたレビューは、チーム間の協働が日常になった。巨大な手戻りが発生していた統合は、常時統合・継続的学習へと変わり、個人の努力に委ねられていた開発の加速は組織構造で自然発生するようになった。
とはいえ、新たな課題も浮上してきた。「LeSSを導入してみてわかったのは、教科書通りにはいかないという現実でした」と、古賀氏は語る。すでに動いているプロジェクトに適応する場合、立ち上がり時は計画通りに進まず、混乱が生じやすい。
また、どこまで意思決定すべきか、どこまで支援すべきかといった役割のとらえ方がチームごとに異なり、摩擦が生まれることもあった。さらに自己流の解釈で「わかったつもり」「やっているつもり」だと、本来期待する効果が出にくいケースもあった。
その際、古賀氏らが意識したのは、納得感を重視した「強制しない」アプローチだった。プロセスを守ることを目的にせず、現場が腹落ちすることを重視する。問題が顕在化したタイミングで振り返りを促すなど、適切な介入を心がけた。そしてどこで流れが滞っているかを観測した数値に基づいて対話するようにした。
ただし、数値は評価ではなく「健全に価値を生み続けられているか」を見定めるものだ。そこで使用したのが生産性フレームワーク「SPACE」の5つの指標、(1)Satisfaction(幸福度・心理的安全性)、(2)Performance(アウトカム・品質)、(3)Activitiy(活動の量・PR数)、(4)Communication(協調・レビューの質)、(5)Efficiency(流れの良さ・待ち時間)だ。これらの指標は、開発ツールと連携できる分析ツール「Findy Team+」を活用して自動的に計測している。
LeSS導入が組織に好影響を与えていることは、SPACEの指標からも読み取れる。まずSatisfaction指標では、アンケートでの「親しい知人や友人に、このチームで働くことを勧めたいか」の回答が72%から92%へと向上した。こうした心理的安全性の向上は不具合の早期発見や積極的な改善提案につながっている。
Performance指標ではリリース頻度が月に0.5回から2回へと増加。Efficiency指標となる平均サイクルタイムは10日から2日へと短縮された。小刻みにリリースできるようになり、ビジネスの要望にスピーディーに対応できるようになった。
さらに1人あたりの1日の会議時間が0.7時間削減できた。会議の目的を「共有」から「意思決定」に再定義し、会議体を見直したことが大きい。情報共有やドキュメントの見直しに関する調査では84%が高評価であり、満足度の向上も確認できた。

