個人の「意思」を育み、成長を加速させる3ステップ
ひずみを「伸びしろ」に変えるための第1の鍵は、個人の成長に着眼点を置くことにある。SHIFTが重視しているのは、メンバー1人ひとりに「意思」を持たせることだ。自律的な駆動は、外部からの指示ではなく、本人の内側にある意思から始まると考えているからである。
伊藤氏は、個人の成長を加速させるために「選択肢を与える」「意思に沿った成長機会を与える」「フィードバックをする」という3つのステップを社内で循環させている。
まず「選択肢を与える」とは、画一的なキャリアを押し付けるのではなく、本人の目標に対して複数のルートを提示することである。伊藤氏は「彼らが進みたい3年後、5年後のキャリアというものがあった時に、そこに向かってどういう選択肢を提供するのかというのが我々のマネージャーの仕事」と強調した。
提示された選択肢の中から本人に選ばせることで、初めて自発的な「意思」が生まれる。選んだ道に対して成長機会を提供し、フィードバックを繰り返すことで、本人の意思はより強固なものへと磨かれていくのだ。
このプロセスを支えるのが「心理的安全性の担保」である。意見を否定せず聞く姿勢を持ち、発言しやすい雰囲気をつくることで、意思決定の質は高まる。またコーチングにおいては、メンバーが自分では変えられない不満に固執するのではなく、解決可能な課題に集中できるよう「ポジティブに導く」視点への転換を促している。
さらに、伊藤氏はコミュニケーションの質を向上させる技法として、アーノルド・ミンデルの「3つの現実レベル」を挙げた。これは「合意された現実(ビジネスやタスク)」「ドリーム・ボディ(感情や直感)」「エッセンス(根本的な価値)」の3層を行き来する対話手法である。単なる業務連絡に終始せず、相手の想いや価値観に触れることで、深い納得感と共感を生み出すのだ。
この3つの現実レベルを行き来させることによって、受け手は「自分の思っていることを理解してくれた」という感覚になっていく。こうした対話の層を厚くすることが、個人の意思を育む土壌になるのである。
マネージャーは「翻訳者」であれ。未来を自分事化させる対話術
第2のポイントは、マネージャーがいかにして組織の共通の方向性を指し示すかである。SHIFTが実践しているのは「組織の未来を想像させる」マネジメントだ。組織が巨大化するほどトップが掲げる抽象的なビジョンと、現場のエンジニアが取り組むタスクは乖離しやすくなる。このギャップを埋めるため、マネージャーは「翻訳者」としての役割を担わなければならない。
この翻訳作業における指針が「Start With Why」である。経営のメッセージを単なる「命令」として伝達するのではなく、なぜこの事業が必要なのか、なぜこの方向を目指すのかという「Why(理由・目的)」を現場の言葉に翻訳して伝える。伊藤氏は「Whyがないと進まない」「Whyから伝えないと人は動かない」と断言する。メンバーが仕事の意味を深く理解して初めて、組織の未来は「自分事」へと変わるからである。
また未来を想像させるためには、マネージャーとメンバーが「共に未来を考える」場を持つことが重要だ。SHIFTでは、定期的なふりかえりの中で、未来の解像度を上げる時間を意識的に設けている。伊藤氏は部下に対し「絵に描けてない餅は絶対作れない」と常に語りかけている。
伊藤氏は「まず絵に書け」「餅を書きなさい」と促すことで、不確実な未来に対して積極的なイメージを持たせ、組織全体の推進力を高めているのだ。

