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Developers Summit 2026 セッションレポート

量子コンピュータを「実験室の装置」から「コンピュータシステム」へ──大阪大学が描く実用化ロードマップ

【19-D-7】「純国産」量子コンピュータの裏側お見せします!

研究室にある物理的な量子チップが、外部ユーザーでも利用可能になる?

 国産量子コンピュータのクラウド公開というミッションを達成するため、研究グループは「OQTOPUS(オクトパス)」と名付けられたオープンソースの量子システム基盤を開発した。これは、研究室にある物理的な量子チップを、外部のユーザーがインターネット経由で汎用的なコンピュータとして利用できるようにするためのソフトウェアスタックだ。

 システム構成は、「フロントエンド層」「クラウド層」「バックエンド層」の3階層アーキテクチャを採用している。フロントエンドでは、ユーザーがPythonを用いて量子回路のプログラムを記述する。ここでは、大阪大学発のスタートアップであるQunaSysが開発した量子計算ライブラリ「QURI Parts」をベースにしており、OQTOPUS専用のプラグインを介してプログラムがクラウド層に送信される。クラウド層はAWSのサーバーレスアーキテクチャを活用し、RESTful APIとOpenAPI標準を用いてジョブ管理とユーザー管理を効率的に処理する。

オープンソースの量子システム基盤「OQTOPUS」のシステム構成

オープンソースの量子システム基盤「OQTOPUS」のシステム構成

 最も複雑かつ中核となるのが、実際の実験室に配置された「バックエンド層」だ。ここでは、クラウドから受け取ったプログラム(OpenQASMフォーマットなどで記述された量子ゲートの並び)を、実際の物理現象に変換する作業が行われる。超伝導型の量子コンピュータは、マイクロ波を照射することで量子ビットの重ね合わせや量子もつれを制御する。

 ユーザーが記述した抽象的なプログラムは、「トランスパイラ」と呼ばれるモジュールによって、ハードウェアが直接解釈できる4種類の「ネイティブゲート」の組み合わせへと変換される。

 この変換の過程において、物理的な制約を考慮したマッピングが極めて重要となる。超伝導量子チップ上の量子ビットは格子状に配置されており、隣接するビット間でしか量子もつれを生成できない。トランスパイラは、ユーザーが意識せず書いた回路を、この物理トポロジーに適合するように最適化して配置する。

 その後、デジタル信号はQuEL社(同じく大阪大学発スタートアップ)が開発した制御装置に送られ、D/A変換によってアナログのマイクロ波パルスへと変換される。このマイクロ波が、絶対零度に近い10ミリケルビンという極低温に保たれた希釈冷凍機内の量子チップへと同軸ケーブルを通って照射され、計算が実行される。結果はチップからの反射信号として読み取られ、A/D変換を経て再びデジタルデータとしてユーザーに返却される。

 「量子コンピュータは重ね合わせ状態をうまく利用するものです」

 森氏が説明するように、量子ビットは0と1の状態を確率的に同時に保持する。例えば、状態の確率振幅を表す複素数の絶対値の2乗が、観測時にその状態が現れる確率となる。1000回の測定を行えば、設定された確率分布に従って700回が「1」、300回が「0」といった結果が得られる。OQTOPUSは、この確率分布を意図した方向へ正確に操作するための、精緻なパルス制御をソフトウェアの力で実現しているのだ。

量子コンピュータは重ね合わせ状態を上手に利用する

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量子情報を人間の世界に持ってくるには観測が必要

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量子コンピュータ公開までにあった、泥臭い手作業のプロセス

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この記事の著者

中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)

 日本総合研究所を経て2025年よりCodeZine編集部所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

関口 達朗(セキグチ タツロウ)

フリーカメラマン 1985年生まれ。東京工芸大学卒業後、2009年に小学館スクウェア写真事業部入社。2011年に朝日新聞出版写真部入社。2014から独立し、政治家やアーティストなどのポートレート、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。2児の父。旧姓結束。趣味アウトドア。

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https://codezine.jp/article/detail/24197 2026/05/20 09:00

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