ハーネスエンジニアリングでも超えられない「組織全体でのAI活用」の壁
DevRevは2020年10月、ChatGPTが登場する約2年前に、Nutanixの元CEO兼創設者であるDheeraj Pandey氏、SVP of EngineeringであったManoj Agarwal氏によって創設された。創業以来、サイロを打破し、AIと人間が協働する「チーム・インテリジェンス」の実現を掲げ、AIソリューションを提供している。
現在、同社において、プロダクト組織、ブランド、マーケティングを包括的に統括し、フラッグシップ製品「Computer, by DevRev」のローンチを主導した人物が、Michael Machado氏(以下、マチャド氏)だ。マチャド氏は、2014年頃からデータ分析、統計学、そしてディープラーニングモデルの応用研究に従事し、2016年にMetaMind買収を通じてSalesforceに参画。同社でVP of Product Managementを務めた後、DevRevに参画した。
DevRev Corporate Vice President(プロダクト&ブランド担当)Michael Machado氏
撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア(以下、同様)
マチャド氏はSalesforceに在籍していた当時、AIがビジネスにおいて真の能力を発揮し、自律的に業務を遂行するためには、単に人間の指示を言語的に解釈する能力だけでは不十分ではないかと問題意識を抱いた。その指示が発せられた背景や組織の運営状態、すなわち「文脈(コンテキスト)」を把握する必要があるとすでに感じていたのだ。
「AIが本来求めているのは、『推論の基盤となる一貫性のあるデータ』、『自律的に動くための明確な方向性』、そして『安全に稼働するための適切なセーフガード』の3つだと考えました」
この仮説を設計に反映したものこそ、DevRevのフラッグシップ製品である「Computer」だ。マチャド氏は、同製品を「エージェントが仕事にスピードを与えるために必要な明確さを、AIに与えるもの」と紹介する。ここで表現されている「明確さ」とは、組織がどのように運営され、誰がどのような役割と責任を担い、顧客とプロダクトがどのように結びついているのかをAIが正確に把握している状態を指す。
チーム全体の知識を蓄積・共有する具体的なメリットは大きい。仮に、単体のAIエージェントで組織全体の理解を実現しようとすれば、大量のコンテキストをLLMに無理やり流し込む必要が生じ、結果として莫大なGPUリソースの消費、ひいてはトークンコストの高騰を招く。さらに、コンテキストウィンドウからあふれることで出力品質の低下を招く可能性もある。
先に挙げた課題は、近年注目されるアプローチである「ハーネスエンジニアリング」でも解決が難しいとマチャド氏は指摘する。LLMの周囲にプロンプトの仕組みを整えるハーネスエンジニアリングは、特定のユースケースに対して部分最適な理解は進んでも、組織全体を理解することに対しては効果が薄い。DevRevが「Computer」を通じてAIに渡すのは、個別具体のユースケースと組織が提供するビジネスの両方だ。
組織内にある数兆規模のトークンデータを「7つの層」でナレッジ化
DevRevの「Computer」は、AIを既存のワークフローへの後付け機能や単純なラッパーとして付け足すのではなく、最初からアーキテクチャの根幹として位置づけて設計された。具体的には、「7つの層」からなる設計思想を基に構成されている。
最初は、組織内で使用されているあらゆる外部システムとシームレスに接続する「Access」層だ。Salesforce、Slack、メール、カレンダーといった、従来は部門ごとに分断されていたデータソースとのコネクターとして機能する。
このアクセスレイヤーの接続性をベースに、次の「Retrieval」層が働き、各システムから適切な情報を的確に見つけて取得する。このレイヤーでは外部システムと双方向に同期する特性を持っており、エージェントがアクセスできるデータを常にほぼリアルタイムの最新バージョンに維持する役割を果たす。
さらにその上位に位置するのが、単体では孤立しているデータソース間の関係性を緻密にマッピングする「Context」層である。ここではすべてのアクセス権限やデータのカスタマイズ内容を取り込みながら、顧客とサポートチケット、あるいはプルリクエストとそれを担当した開発者といった、異なるシステム間のエンティティ(実体)の関係性を定義する。これにより、製品、業務、顧客、チームが、日々の作業を通じてどのように繋がっているのか、ビジネスの全体像をシステム上に落とし込むことができる。
続く「Memory」層は、ユーザーが過去に行った決定や、学習された特有の行動特性など、過去のすべてのやり取りを正確に理解して呼び出すことができる層で、AIエージェントに対して組織や個人に応じたパーソナルな記憶を付与する。
これら4つの準備層がデータを前処理した上で、初めて「Runtime」層において、Gemini(Google)やClaude(Anthropic)、ChatGPT(OpenAI)といった外部の基盤モデルに情報が提示される。これによってLLMは、膨大なノイズから隔離された高純度かつ高密度なデータのみをインプットとして受け取ることができる。
推論された結果は、次に「Entity Mapping」層へと送られ、ユーザーとデータの本質的な関係性が解釈される。ユーザーが発する「私のチーム」や「あの顧客」、「このチケット」といった曖昧な表現が、現在のタスクや文脈において具体的にどのオブジェクトを指しているのかを正確に突き止めるのがこの層の役割だ。
そして最終的に、これらすべてのレイヤーが統合され、チーム全体の知識を蓄積・共有する「Shared Memory」の層が出来上がる。チームメンバーがシステムを利用すればするほど、組織の運営基盤に関する洞察がナレッジグラフとして蓄積されていく仕組みだ。
DevRevのプラットフォームはこの7つの階層すべてによって、組織内にある数兆規模のトークンデータをそのままLLMのGPUに丸投げして推論させるのではなく、CPUを活用した事前の構造化と関係性の抽出によって、LLMが理解するその瞬間の適切な情報、すなわち数千トークン規模のコンテキストウィンドウへとデータを圧縮して提供する。これこそが、ハルシネーションを極小化し、推論の正確性を最大限に高めるための鍵になっている。
AIの自律的な判断を支える、厳格なガードレールとHuman in the Loopの設計
自律型エージェントの導入プロセスにおける困難は、AIが決定論的なワークフローから確率的なワークフローへと移行する際のリスク管理、すなわち安全性と権限管理の担保にもある。AIが自律的に判断してシステムを操作するようになると、人間の意図しない誤操作や、アクセス権限を超えたデータの閲覧・リークが発生するリスクが浮上する。「Computer」はこの課題に対し、極めて厳格なガードレールを実装することで解決した。
システムが統合される際、元となるソースシステムのアクセス権や特権設定を尊重し、エージェントは常にその操作を行うユーザー自身の権限の範囲内でのみ行動し、データ漏洩を回避する仕組みを第一の保証とした。さらに、エージェントが起動した際には即座にプランニングモードへと移行させ、実行予定のステップを段階的にユーザーへ可視化するアーキテクチャを採用した。
すべての変更を一度にシステムへ反映するのではなく、プロセスの各ステップを段階的にステージングすることにより、エラーが複合的に重なり合うのを防ぐ。そして最終的なアクションの承認、任意の段階へのロールバック、あるいは操作全体を取り消す権限を常に人間に委ねる「Human in the Loop」の構造を徹底した。
「Computer」は、プルリクエストと顧客の反応を紐づけるプラットフォームにも
DevRevの「Computer」は既に組織での導入が進んでおり、徐々に定量的・定性的な効果が見え始めている。
定量的な側面における最大の成果は、データ処理効率の向上と、それに伴う大幅なコスト削減だ。組織内の膨大なデータからナレッジグラフを用いて必要なコンテキストを事前に抽出する仕組みにより、一般的なLLM運用と比較して、消費トークンを実に95%削減する。
また、生データをコンテキストに読み込むのではなく、NL2SQL技術によってShared Memoryを照会することで、AIエージェントからのレスポンス速度は5.5倍と大幅な高速化を達成した。トークンコストの低減と応答速度の向上、さらにはハルシネーションの抑制による精度の担保を同時に実現した。
業務プロセスにおける定性的な効果も多方面に及んでいる。エンジニアリングの現場であれば、システムと顧客の声を直接繋ぐプラットフォームとして活用される。たとえば、Gitのプルリクエストが承認された直後、顧客側で発生した問題との相関関係をAIが自動的に推論する。これにより、エンジニアは顧客が不具合を見つける前に、問題の発生を早期警告シグナルとして検知し、先回りで修正対応を行うことができる。
ここで起きる変化は、単にバグを素早く修正することに留まらず、開発がどの顧客のどのような体験に影響を与えているのかという見通しをエンジニアに与え、開発チーム全体が自然と顧客中心主義的な思考へと変化し、エンジニア組織全体の文化に変革をもたらす可能性を持つ。
サポート組織の場合、組織全体の知識が蓄積された「Computer」があることで、日常的かつ反復的なヘルプデスクへの問い合わせを完全に自動化し、セルフサービスへと移行することができる。また、製品や機能の変更履歴とサポートセンターへの問い合わせを紐づけることで、新機能に対するユーザーの反応を分析することも可能だ。
コンテキストを理解したAIエージェントを開発できる「Agent Studio」
DevRevは2026年5月、東京にデータセンターを設立し、日本へのコミットを強調した。北米、ドイツ、インド、オーストラリアに続く世界で5番目の拠点だ。LLM処理も日本リージョン内で行うことで、データ主権の保持、日本のプライバシー規制への準拠、また低レイテンシでのレスポンスの実現を目指している。
DevRevが日本でのサービス提供を強化する背景について、マチャド氏はこの国に抱く大きな期待をこう表現する。「日本はものづくりの国であり、エンジニアもオンライン・オフラインを問わず自発的に集まり、ハンズオンで技術を学び、相互に知識をシェアすることを強く好むクリエイター気質を持っています。AIは困難な問題を特定し、それに対してクリエイティブな解決策を考え出せる人のために作られており、まさに日本はその条件に合致するのです」
同社が日本市場において目指すのは、単なる業務効率化ツールの提供ではない。日本の開発者たちが持つ高い創造性とハンズオン精神を、AIネイティブなプラットフォーム「Computer」を結びつけることにより、彼らが将来の複雑なビジネス課題を自律的に解決していけるような次世代のイノベーション環境を共に創り出すことにある。その証拠に、同社は「Shared Memory」によりコンテキストを自動で把握しながら、数多くの業務を自律的に遂行するAIエージェントを作成できる「Agent Studio」を、Effortless NYC 2025で発表している。
DevRevのプラットフォームは、日本のエンジニアが本来持つポテンシャルを開放する強力な武器となるはずだ。
AIの精度、消費トークンなどが原因で、PoCから先に進めずAIを業務に導入できていない方におすすめ!
Computer by DevRevはエンタープライズの内外に散らばるデータをナレッジグラフを用いて統合、生成AIに適切な文脈とデータを与えることでコスト効率の高い正確な回答を素早く生成、安心して業務内での活用、AIエージェントによる業務の自動化を実現します。
DevRev Japan公式サイトからお問い合わせください。

