不毛な責任追及が消え、エンジニアのビジネス力も磨かれた
数々の試行錯誤と失敗を経て、愚直にPDCAサイクルを回し続けた結果、開発組織には劇的な変化が訪れた。共通ダッシュボードの導入後3カ月の比較において、PMのダッシュボード確認頻度は実に5倍へと跳ね上がり、プロダクトにおける意思決定のデータ根拠率は30%増加という確かな成果を挙げることができた。「失敗を経験として血肉にしていく文化を醸成するために、ひたすらがんばっていました」と川崎氏。かつて現場を委縮させていた「誰の責任か」という不毛な犯人探しの議論は、エラーバジェットという共通の物差しによって、ほぼ消し去ることができた。
さらに、この変革は週次レビューのあり方やミーティングの生産性という側面にも副次的効果をもたらした。従来の進捗確認と「詰め」がメインだったギスギスした会議は、SLOダッシュボードを眺めながら、限られたリソースをどこに集中させるべきか、一歩先を見据えた意思決定を共に行う場へと刷新された。加えて、感覚値に頼らない定量データによる意思決定は、リリース後の手戻りを約25%削減するという効果をもたらした。インシデントの影響が専門的なシステム不具合の説明ではなく、ユーザーの離脱や売上への影響といった「ビジネスへのデメリット」に言い換えられたことで、エンジニアの事業視点が磨かれ、組織全体の「ビジネス力」が飛躍的に向上するという好循環を生み出している。
対立を越えて「協業する関係」へ──PMとエンジニアで進めるこれからのプロダクト開発
セッションの締めくくりとして、川崎氏は明日からの実践に活用できる4つの具体的なテンプレート、「Blamelessポストモーテム」「エラーバジェット判断フローチャート」「SLOダッシュボード設計ガイド」「技術負債ROI計算シート」を紹介した。リファクタリングを単なる「コードを綺麗にしたい」というエンジニアの技術的なこだわりではなく、将来の損失コスト(Cost of Inaction)を防ぐための「投資対効果(ROI)」へと変換してビジネスサイドに伝えるアプローチなどは、まさに共通言語化のベストプラクティスといえる。
セッションのまとめとして、川崎氏は「PMとエンジニアは決して対立関係ではなく、協業する関係です。パートナーとしてしっかりやっていきましょう」と語った。完璧を求めすぎず、現場の声を聴きながら失敗を交えてチューニングを重ねていくこと。人ではなく徹底的に「コト」に向き合い、組織から「誰の責任?」という言葉をなくしていくためのアプローチを提示し、セッションは締めくくられた。
