独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、10月28日に開催した「IPA Forum 2008」のオープンソフトウェア・セッションで、先ごろ選出した「2008年度日本OSS貢献者賞」受賞者の授賞式を行った。2008年度の受賞者は、リレーショナルデータベースPostgreSQLの石井達夫氏、ブートローダーGRUBおよびGRUB2の奥地秀則氏、ウェブブラウザFirefoxの中野雅之氏という3人の卓越した開発者と、イベント「オープンソースカンファレンス」を通してオープンソースソフトウェアの普及に寄与した宮原徹氏の計4名。授賞式後には受賞者による講演も行われた。
PostgreSQLを本当のナンバーワンに
石井達夫氏は、日本におけるPostgreSQLコミュニティの中心で、10年以上の長きにわたって開発・普及活動に携わってきた。受賞講演では「泥臭い生き様」としながらも、そうした活動の一端を紹介し、また将来の夢を語った。
講演で語られた石井氏の活動内容は、日本語を含む多言語環境のための「国際化パッチ」の作成、日本PostgreSQLユーザ会の設立、「シーラカンス本」の愛称で親しまれる書籍『PC UNIXユーザのためのPostgreSQL完全攻略ガイド』の刊行など実に多岐にわたる。ビジネス面でも、会社の一部門から始まり、現在ではオープンソースソフトウェアに特化した子会社SRA OSSの取締役を務める。
将来については「どうせなら大きなことを考えたい」とし、発表資料としてスクリーンに写されたランス・アームストロング(※1)の写真をバックに、「せっかく長い間やってきたので、PostgreSQLを本当にナンバーワンにしていきたい。機能、性能、それから普及、いろいろ面においてナンバーワンにする」と語った。
「ハンデを克服して大きな成果を上げたすごいアスリートにあやかって、年齢をものともせず」「今まで一緒にやってきた仲間と、これからもOSSの開発に尽くしていく」と決意を述べ、具体的な課題としては「広い意味での人材育成」を挙げた。「OSSは開発者だけで成り立っているものではなく、宣伝、マーケティング、エバンジェリストなどいろいろな人が必要。そういう人を育成できれば、若い人だけでなく、私の世代でも十分にやっていける余地はある」と語った。
治癒率20%といわれる癌治療から生還してツール・ド・フランスを7連覇した不世出の自転車アスリート。
技術者も法的な制限にもっと関心を払って
奥地秀則氏は、受賞理由となったGRUB/GRUB2だけでなく、GNU HURDなど多くのOSSプロジェクトに関わった経験から、ソフトウェアを“開発してもよい状況”を守る努力について、そしてネクセディ日本法人の代表取締役としてOSSビジネスについて、それぞれ考えを語った。
開発者としては、開発者が著作権法違反幇助で逮捕された「Winny」事件の例を挙げ、面白い着想を表現するために自由にプログラムを書いて公開することが当たり前ではなくなっている状況を問題視し、「違法目的で利用できるソフトウェアを公開することで捕まるなら、萎縮しながら開発するしかない」とその影響を指摘した。
また、松下電器による「アイコン特許」事件のような特許の問題にも論及。特にソフトウェア特許については、自身もフランスでFFII(※2)による反対運動に参加したと語った。フランスではDRM解除に関係する「DADVS(情報化社会における著作権および著作隣接権)」法案にも反対したという(こちらは成立している)。
法律面だけでなく、技術面でも「セキュリティチップ」のような制限が現れているが、GRUBにおいては絶対にサポートしないことを公式に表明している。こういった法的あるいは技術の制限によって、悪い影響を受けるのは技術者本人であり、「技術者がもっと法的側面に対しても大きな関心を払って、ぜひ声を上げてほしい」と語った。
ビジネスの面では、日本法人の社長に就任した理由の1つに、「日本でオープンソースの開発が楽しめる職場を提供したいという思いがある」とし、日本でオープンソースの開発に携わっている人が、職場においてもオープンソースの開発を手がけ、それをオープンソースで公開できるような職場を作りたいと語った。
「残念ながら、今でも日本では『オープンソースで作ってビジネスになるんですか?』と質問する人がまだ後を絶たない。ぜひ、オープンソースでちゃんとビジネスができることを日本で証明していきたい」と決意を述べた。