目指すはユーザー主体の開発コミュニティ
Mozilla Japanの中野雅之氏は、日本におけるFirefoxの開発体制について、現状と課題、そしてそれを解決する取り組みについて語った。
中野氏は日本で唯一フルタイムで“国際化”を担当する開発者。だが、ひとことに国際化と言っても、フロントエンドの文字化けから、テキストのレンダリング、IME周りのイベントハンドリング、ネットワークでの日本語文字の転送と、複数のモジュールにわたってバグが発生し、幅広い知識が必要になる。
バグだけでなく、その国固有の問題も扱う。例えば日本のコミュニティでは長年「長いURLを折り返さない」ことが問題とされてきた。もっとも、半角スペースを単語区切りに使う言語では、URLも1つの単語としてみなす人が多く、URL折り返し処理をはじめて入れたときに欧米から反対意見が出て「びっくりした」という。国際的なソフトウェアならではのエピソードだ。
実際の開発では、OSSに参加するボランティアが重要だという。テストビルドのテストや、さまざまな知識の提供においては多くの参加が不可欠であり、そのための開発コミュニティとして、100%ボランティアで運営されているBugzilla.jpがとても有効に機能しているという。
しかし、ライトユーザーにとってはBugzilla.jpもシステムと雰囲気の両面で敷居の高い場所となっている。また、ユーザーは自分が直面したバグを最優先してほしいが、開発者は複数のバグを見ながら判断するといった隔たりもある。これを回避するため、今後は“ライトユーザーが気軽にバグを報告できる場”を提供していきたいという。
中野氏は「目指すものは“ユーザーが主体となった開発コミュニティ”です」と語り、「1年かけてでき上がらないコミュニティは機能しないでしょう」と、あまり時間をかけず、2009年中には新コミュニティを立ち上げたいと、次のステップに向けての構想を語った。
オープンソースで地域の活性化を
宮原徹氏は、オープンソースに特化した技術セミナー「オープンソースカンファレンス(以下、OSC)」を、2004年から全国各地で延べ30回以上開催している。累計参加者は、大雑把に概算して1万5000人位ではないかという。
宮原氏は、オープンソースコミュニティには、活動のマイルストーンとして、成果を発表する場が必要だという。それはインターネットで公開するだけでなく、フェイストゥフェイスのコミュニケーションの場で、コミュニティ間の交流、開発者とコミュニティの交流、そして開発者とユーザーの交流、学生やビジネスパーソンとの交流にも力を入れていかないと「バランスが取れない」と語る。
そうした場として、OSCを、「北は北海道から南は沖縄まで」全国縦断で開催することで、単なる交流だけでなく東京一極集中の解消と、地元の若手人材の育成に少しずつシフトし始めているという。人材育成としては、専門学校が会場を提供してくるなど学校が協力的なこともあり、地元の20歳前後の学生が“オープンソースのちょっと濃い目のところ”と交流することで「こういう世界もあるんだ」と見せることが、10年20年後に与える効果は大きいという。
オープンソースソフトウェアを地域づくりに活かすことについては、特にOSC北海道の活動が顕著だ。「LOCAL」(※3)というメタコミュニティが生まれNPO化を目指すなど、先行事例として活発な活動を行っている。「東京はたくさんありすぎて、逆に発散してしまい、盛り上がりが見えにくくなります。北海道みたいなところだからこそ、地域で活動を具現化していく動きができるんだなと感じました」と宮原氏は語っている。
受賞した4人の講演を通して、ただソフトウェア開発だけを行っているのではなく、オープンソースを1つの運動としてとらえ、ビジネスや社会、一般ユーザーなどとのコミュニケーションを重視していこうという視点が共通して感じられた授賞式だった。