競争力確立における組込みソフトウェアの重要性は大きい
八尋氏は、行政の側から見た組込みソフトウェア産業の課題と政策展開について講演を行った。まず昨今の景況悪化にふれ、「急激な景気後退が進んでいる。新しい保証制度『原材料価格高騰対応等緊急保証』などの対応策をとっているが、中小企業の状態はますます悪くなってくることが予測される」と楽観が許されない状況を指摘した。
「そうした中でわが国の産業の競争力を確立していく意味でも、組込みソフトウェアの重要性はますます大きい。国内総生産(名目)に占めるソフトウェア関連産業のうち、組込み関連製造業は13.1%。輸出製品の6割以上が組込み関連製品であり、輸出総額84兆円のうち50兆円におよんでいる」
また八尋氏は、組込みソフトウェアの量的・質的変化が急速に進んでいる点にも言及する。「組込みソフトウェアの規模は、急拡大している。たとえば自動車で5~10倍、カーナビで2~3倍(2000年比)にふくらみ、最終製品の性能を決める大きなカギになってきている。これを受けて、経産省では組込みソフトウェア産業の強化を推進している。そのための『重点計画2008』では、組込みソフトウェアの共通基盤となるプラットフォーム確立に向け、企業連携を促進するための具体的な施策について引き続き検討を行う。同時に、2009年度までに車載制御用の高信頼な基盤ソフトウェアや開発環境を開発・整備する。こうした取り組みを通じて、日本の組込みソフトウェア標準が国際標準の地位を獲得する方途を探りたい」
組込みソフトウェアの信頼性向上と国際標準化への取組みを急げ
そうした上でもっとも急がねばならない課題が、ソフトウェアの信頼性向上だと八尋氏は言う。電話回線の不通や航空機の予約システムダウン、ATMの停止、自動車のプログラム欠陥による故障など、あちこちでさまざまなトラブルや問題が起こっている。この不具合はソフトウェアを原因とするものが圧倒的に多く、全体の4割以上を占める。とくに組込みソフトウェアの品質は製品のクオリティに直結するため、期待も大きい分、問題が起こるとマスコミも注目して騒ぎになりやすい。
「ここに対して、品質の確保と信頼性の向上に向けたいくつかの取り組みがある。これまでの国際的な機能安全規格の例としては、ドイツなど欧州主導で進められてきた原子力、産業機械の分野がある。また現在は、自動車を対象として国際規格化(ISO26262)の動きが本格化してきた。この背景には、欧州での市場統合がある。誰が作っても一定の機能レベルを保証できる取り決めが求められており、ここを押さえられないと、せっかく日本がよいものを作っても認められない。日本が今まで得意とはいえなかった国際標準化という流れに、今後どう取り組んでいくかが問われるところだ」
また一方では、ソフトウェアの信頼性向上が社会の基盤作りとしても大事だという認識が広まりつつある。安全性・信頼性の基盤として社会インフラを構築し、それを国際展開しなければならないと八尋氏は言う。
「情報システムのディペンダビリティ確保と、重要インフラに関する障害情報の共有システムの強化・開発が必要だ。情報システムの信頼性強化に向け、経産省でも2004年のIPA/ソフトウェア・エンジニアリング・センター設立、2007年の共通フレーム2007の策定を始めとした施策を、業界団体や法律家の協力を得て積極的に進めている。2008年からは省内にソフトウェアの信頼性を考えるための組織が発足し、また課題解決に向け海外の関連機関とも連携を深めつつある」