高価値領域への開発資源の集中と開発者による協業体制の確立を
組込みソフトウェアが置かれた現在の状況や取り組みをふまえて、八尋氏は今後わが国の産業構造の目指すべき方向性について語る。「まず開発コストと開発体制のバランス作りがカギだ。現在の開発の外部委託の状況を見ると、組込みソフトウェア開発費の社内(ユーザ・メーカ)と社外(ベンダ)の比率は、49%/44%とほぼ同等になっている。もし委託が増えすぎると品質管理が難しい、委託先の人材確保が困難といった問題が起こり、一方これを受ける側でも計画・仕様変更や納期などの条件が負担になってくる。このバランスを最適化するのは難しいが重要な課題だ」
また単に委託/受託の比率を変えるだけでは、どちらかにコスト負担が偏っていくだけの結果になりかねない。これを避けるために、メーカー(組込みソフトウェアユーザー)は「高価値領域への集中」と、「それを担えるベンダとの協業」といった体制へのシフトを強めるべきだと八尋氏は方向を示す。
「メーカーは自社の強みを活かせる高価値領域へ資産(人材・資金)を集中し、国際競争力の強化を重点戦略とする。同時に、モジュール化・プラットフォーム化できる競争領域は部品化して、部品ベンダ(サプライヤ)・ツールベンダにシフトさせる。このような技術の集中と開発負荷の分散を両立させることが必要だ。これをソフトウェアベンダの側から見れば、独自開発に必要なシステム設計/検証技術力の獲得、メーカーの競争領域を分担できる企業力の獲得、受託開発企業から部品ベンダ/ツールベンダへのシフトという命題が浮かんでくる。こうしたセットアップメーカーとソフトウェアベンダが協業しつつ、いかに国際競争力をつけていくかを考える場を、今後は増やしていきたい」
人材育成に向けたスキルの可視化は日本の国際競争力獲得のカギ
もう一つ、わが国の組込みソフトウェア業界が国際競争力を獲得する上で重要なのが、人の問題だ。組込みソフトウェア開発の課題解決には人材のスキル向上が重要であり、そのための客観的かつ定量的な、技術力の判定・評価の仕組みが不可欠だと八尋氏は語る。
「『スキルの見える化』という観点からは、ETSS(組込みスキル基準)が有効なツールになる。経産省やIPAなどが協力して策定したこの基準は、組込みソフトウェア開発の分野における人材の育成や有効活用の指針となるもので、今後はETSSと国家試験との連携や、ETSSで定められたスキルを用いることで、どのような効果や成果が期待できるかといったデータの蓄積・分析を行っていきたいとも考えている。ETSSスキル認証を持つ人材がプロジェクトに加わった結果、開発パフォーマンスが向上することが調査結果として出ており、不具合の発生頻度、費用、生産性などいずれの項目でも有効性が立証されている」
スキル標準の国際化をめざして国境を越えた協働が進む
一方、スキル標準の国際化の動向については、「いまだに世界統一規格は存在しないが、世界中で国境を越えた標準化を探る動きは進んでいる。わが国のETSS以外では、アメリカの『Skill Standards for Information Technology』、イギリス、ドイツ、フランスの『e-Competence Framework』といった標準がそれぞれ存在するが、今後は互換性という意味でも、また人材育成という点でも、お互いが連携や関連性を考慮しながら進めていかなければいけない」という。
