日本のシステム開発のレベルアップのためにできること
ClearDocは、ドキュメント全体を通したあいまい度もグラフで見ることができるため、作成者ごとの品質も明確になる。このことから沼倉氏は、ドキュメントを作成する担当者の再教育やスキルアップにも役立つと説明した。
これを受けて細川氏は、「ドキュメントの品質を定量的に評価することが可能になれば、そうした品質を作り出している担当者のプラクティスを評価し、横展開することもできるのではないでしょうか。また、ドキュメント品質を高めることは、単に作り手側の問題でなく、ユーザー企業に付加価値を提言することにも繋げていけると思います」と感想を述べた。
日本の品質の高さをいかにビジネス価値につなげるかが課題
さらに細川氏は、マサチューセッツ工科大学でソフトウェア戦略について研究しているマイケル A. クスマノ教授による生産性・品質の比較についての論文を踏まえて解説した。「日本とアメリカのエンジニアを比較すると、日本は生産性、品質の両方ともアメリカよりも優れているにも関わらず、ソフトウェアのビジネスでは圧倒的にアメリカが優位に立っていると指摘されているんです。私も日本のエンジニアは真面目で生産性が高く、テストもきっちりこなすにも関わらず、それがなかなかビジネス価値に繋がらないところが課題だと感じています。日本のエンジニアのレベルの高さを示す手段としても、ClearDocのようなツールが使えるかもしれませんね」と細川氏。
その後対談は、日本のエンジニアが得意とする「品質」を世界に売るというテーマで展開されていく。細川氏は「仕様書の品質を早期の段階で確保することは、なかなか難しい問題であり、多くのプロジェクトマネージャーが悩んでいることだと思います」と語る。
ユーザーのニーズに応じた品質レベルの可変性が必要
沼倉氏は「PROVEQでは、携帯電話が出始めたころから第三者による検証サービスを提供しています。世界中に携帯電話が広まっている中で、日本の携帯電話の品質は、異常といってもいいくらい高く、多機能です。この品質を維持していくほうがよいのでしょうか?」と細川氏に尋ねた。これに対し細川氏は「もちろん、品質は重要ですが、必要以上に高い品質はコスト増につながり、結局価格面で競争力を失ってしまいます。つまり、ユーザーの要求レベルに応じて、必要な品質・性能を提供することが重要になります」と回答した。
もっとも大事なのはユーザー企業とよりよい関係を築くこと
現在では、ユーザー企業もコストにより厳しくなり、SIerにはコスト削減努力に加えてスピードも求められる。細川氏は最後に「SIerは、ユーザー企業のよりよいパートナーになることが大事。受け身の姿勢ではダメで、ユーザーと一緒に品質とビジネス価値を作り上げていくことが、次代のSIerやパッケージベンダーなどのソフトウエア産業に必要なことだと感じます。こうした変化はこれからますます加速するのではないでしょうか。例えば、SaaS、PaaSなどのクラウドサービスが普及してくると、ビジネスに役立つものをタイムリーに提供することが今まで以上に求められます。新しい潮流に対応することは大変ですが、エンジニアやソフトウェア企業にとって、よりチャンスのある時代になるという考え方もできます」と語り、対談を終えた。
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