スマートフォン特化型広告配信SSPサービス「AdStir」の機能詳細を紹介
スマートフォン向けのアプリ/Webメディアを広告モデルで事業化させたい。そのために役立つサービスはないだろうか――。そう考えているアプリ開発者/Webメディア運営者(サプライサイド)向けのプラットフォームサービスとして、ngi group株式会社が「AdStir」を無料で提供開始してから既に1カ月以上。前回はその概要について紹介したが、今回は機能の詳細や使い勝手、今後の計画などについて取り上げてみよう。
イールドオプティマイゼーション機能で収益をどれくらい改善できるのか
AdStirはアドネットワークからの収益を最大化するイールドオプティマイゼーション機能と、純広告や自社広告を配信するためのアドサーバ機能を備えている。
このうちのイールドオプティマイゼーション機能を詳しく見ると、大きく以下3つの要素から成り立っている。
- アドネットワークごとの広告在庫状況を確認して在庫切れを検知する機能
- アドネットワーク別に配信可否や配信比率を設定できる機能
- 端末・所在地に応じて配信可否/比率をカスタマイズする機能
アドネットワークを利用する上で、最大のリスクは広告在庫切れ。いくら高単価なアドネットワークを入れていても、配信ロスが生じては収益性を著しく下げてしまう。AdStirではまず配信ロスをなくして広告配信率100%にした上で、収益が最大になるネットワークの選定/配信比率の設定、端末・所在地ごとのカスタマイズといった調整を施せるように考えられている。
実際のところ、AdStir導入によって収益がどの程度改善するのだろうか。まだリリース間もないために実績値ではなく机上の試算になるが、月半ばで広告が在庫切れになっていたのなら、配信ロスがなくなるので単純計算で収益は2倍になる。
アドネットワークによっては、優良なアプリ/Webメディアに対して相場の2倍ほどの単価で提携を打診するケースもある。あるいはクリック課金での提携の場合、同じ企業の広告ばかりが掲載されていてはクリック率が当然低くなり、CPMが低下してしまう。AdStirを使って複数のアドネットワーク広告を配信し、ユーザー属性と親和性の高い広告を配信してくれるネットワークを探すことで、大幅な収益改善が見込めるかもしれない。
複数アドネットワークの導入・運用の手間を大幅に減らすAdStirの管理機能
続いては、イールドオプティマイゼーション機能の使い方について紹介しよう。
AdStirの実際の管理画面は、下記のとおり。シンプルで直感的な操作が可能。全般的に使い勝手の良いつくりになっている。
アドネットワークを個別に導入/変更する場合、通常なら各社のSDKを埋め込み、各社アドネットワークから提供を受けるパブリッシャーIDをプログラム内に設定する必要がある。だがAdStirを導入すれば、提携済みのアドネットワークとの連携に必要なパブリッシャーIDなどの設定は、すべてAdStirの管理画面から行えるようになる。
そして、各アドネットワークとの新規提携申請も、AdStir管理画面からリンクをたどり、各社申請ページで済ませられる。数ある候補の中から、最適なアドネットワークを探すのに役立つことだろう。つまり、AdStirにアドネットワークとして対応させることで、アドネットワーク事業者も、アプリ事業者/Webメディア事業者を獲得できる可能性がある。ただ、重要なポイントが収益性であるという点は変わらない、AdStirでアプリ事業者/Webメディア事業者を獲得したとしても、収益性が低いと利用者に判断されれば広告配信はされないだろう。
収益を最大化するためには、アドネットワーク別の配信可否/比率を何度も調整する必要があるはず。そうした操作は上記の画面で設定できる。設定内容は、対象のアプリ/Webメディアで即時反映。短いスパンで効果検証できるのは、うれしいところだ。
平常時は、[配信比率]欄で比率設定した割合に沿って、各アドネットワークの広告が配信される。アドネットワークにて在庫切れが発生した場合は、比率設定されている他のアドネットワークの配信割合が増加する。比率設定したアドネットワークすべての在庫が切れた際には、[在庫切れ時の優先度]で設定した順番で広告配信される。また、日本国内と国外でそれぞれの配信設定を調整することも可能になっている。
配信比率を調整した結果、売上がどう変わったかは、各アドネットワークのサイトから売上レポートを見て確認することになる。各アドネットワークがAPIを公開していないため、一手間掛かってしまうが、配信実績についてはAdStir側の管理画面にある配分レポートから把握できる。
複数のアプリ/Webメディアを束ねて独自アドネットワーク構築も可能なアドサーバ機能
アドサーバ機能の管理画面についても見てみよう。
期間保証、インプレッション保証、クリック保証といった販売形態に対応。広告キャンペーンの設定作業は、1枚画面で必要なデータを順に入力していくだけ。マニュアル等を読まなくても、手軽に設定を済ませることができる。
アドサーバ機能で特徴的なのは、「広告キャンペーンを自社アプリ/自社Webメディアのどれに掲載するか」を自由に選択できるようになっている点。別の言い方をすれば、自社アプリ/自社Webメディアにて、独自アドネットワークを構築できるようになるのだ。
独自アドネットワークが構築できる機能は、客先で好評な機能だという。というのも、特にスマートフォン向けアプリの場合、1事業者で複数のアプリをリリースしているケースも多く、中には1社で数百のアプリを保有しているところもある。
既に自社アプリAの登録ユーザなら、別の自社アプリBに誘導し獲得することで全体ARPUが向上する。自社の複数無料アプリで有料アプリの宣伝を行い、有料課金でダウンロードしてもらった方が、アドネットワーク広告掲載よりも高収益になることもある。そんなスマホ向けアプリ特有のニーズから、このような機能が求められていたようだ。
こうして設定した広告キャンペーンは、前述のアドネットワーク関連の設定画面、[配信比率]欄の[アドサーバー]項目で設定した比率で配信される。目標期間内のインプレッション消化が難しい時などには、比率変更して即座に露出頻度を上げることができる。アプリ開発者/Webメディア運営者側でかなり自由に広告露出をハンドリングできるようになるだろう。
対応アドネットワークは随時追加
機能面もアドサーバ関連を中心に強化予定
このような機能を備えるAdStirだが、今後のロードマップはどうなっているのだろうか。
まずは肝心のアドネットワークの対応状況。ngi group株式会社 メディアプラットフォーム事業部の植雄平事業部長によると、AdStirが現在対応しているアドネットワークは複数社にわたるが、当面は主要アドネットワーク10社程度との連携を目指し、随時対応先を増やしいていくとのこと。スマートフォンアドネットワークが有する広告在庫として8割程度はカバーし、アプリ事業者/Webメディア運営者をサポートする計画だ。
機能面についても「AdStirはまだ始まったばかり」(植氏)と強化に向けて意欲を示す。特にアドサーバ関連機能として、前編でも述べた「キャリア識別配信」や「フリークエンシーコントロール」などの広告配信部分で追加機能をリリースしていきたいと話している。また、海外対応も進めており、現在AdStir導入マニュアルwikiについては英語化が完了、近日AdStir管理画面の英語版をリリースする予定だ。
AdStirでスマートフォン広告の市場自体をより魅力的なものにしたい
AdStirも「始まったばかり」なら、スマートフォン向けの広告市場もまだ始まったばかり。利用者数が増え続けているとはいえ、アプリ/Webメディアの広告露出量はまだ少ない。また、出稿した費用対効果を加味すると、広告主側にしてみたらモバイルよりは単価は比較的高いというのが正直なところだろう。
まだ未開拓な市場に出稿しようという広告主に対して、ユーザ集客の側面を担う意欲的なアプリ開発者/Webメディア運営者を、収益面/配信システム面で支援し、スマートフォン広告の市場全体をより魅力的なものにしていきたい――。そんな思いや、利用料金無料でマージン等が一切発生しない点も評価されてか、大手のアプリ/Webメディア事業者の中からも、AdStirの導入に向けて動き出しているところが現れ始めている。
「簡単なサービスで、すごくシンプルにつくっています。収益性はさておき、まずはご利用いただき、評価/フィードバックから改善を進めたいですね。今後は、アプリ事業者様/メディア運営者様の収益性をより高め、かつ広告主様のお役に立つようなサービス構造を構築したいと考えています」(植氏)
これから、どれだけのスマートフォン向けアプリ/Webメディアが広告モデルで成功を収め、その陰でどれだけAdStirが貢献することになるのか。スマートフォンがさらに盛り上がっていくよう、AdStirの今後の活躍に期待したい。