難しすぎず、簡単すぎない入門書
――荒川さんはこれまでUnity本を多く書かれていますが、今回『作れる! 学べる! Unreal Engine 4 ゲーム開発入門』を手がけられたのはなぜですか?
荒川:私は日本工学院専門学校のクリエイターズカレッジにあるゲームクリエイター科の教員で、学生にはゲーム作り、メインとしてはUnreal Engine(以下UE)とUnityを教えています。
おっしゃるように著書にUnity本が多いため、はたから見ればUnity寄りのように思われているかもしれませんが、個人的には最終的にゲームが作れるのであればどのゲームエンジンでも構わないと考えています。ただ、Unityだけの人だと思われると困るので(笑)、UE本を出したいという気持ちはありました。
――本書は1月18日(水)に刊行となりましたが、UEの無償化から2年弱というタイミングには何か意味があるのでしょうか。
荒川:今だからこそという大きな意図はありません。本書は私から企画を打診したんですが、その動機の一つには自分自身にノウハウが溜まってきたことがあります。また、類書はゲーム作りの基礎知識があることを前提にした入門書か、とりあえず使ってみようという簡単な入門書が多く、教員という立場からすればその間を埋める書籍が必要だと感じていたことも理由です。
読み終われば自分で調べながらゲームを作れるようになる
――では、本書は具体的にどういう方を対象にしているのでしょうか。
荒川:ゲームを作ったことはないけれど、UEを使ってゲームを作ってみたいという方です。業務システムやWebの開発などに携わっているような方であれば、問題なくゲーム作りの手法を学べると思います。
ゲームエンジンを利用すれば、グラフィックデザイナーやサウンドクリエイターでもゲームを作ることができます。ゲーム作りにはパラメータなどの細かい調整が必要ですが、そうした作業もプログラマに頼ることなくできるわけです。
最初は慣れない用語や機能で戸惑うかもしれませんが、本書はそもそもゲーム作りを初めて学ぶ専門学校生向けを意識していたので、たとえばパラメータの使い方だけでなく、それがどういう意味なのかもきちんと説明しています。
また、プログラミングの知識はあるに越したことはありませんが、本書の中ではコードを使わず、ブループリントというビジュアルスクリプティングシステムを使用します。ゲームのルールをブロックの組み合わせで作っていくシステムですが、これは配列の考え方を知っていれば容易に理解できるものです。もちろん、本書ではプログラミング初心者でもわかるように配列や変数などについても解説しています。
初心者がプログラミング言語を学ぶときに壁となるのが、コードがビジュアルに必ずしも結びつかず自分が何をしているのかイメージしにくいところです。しかし、ゲームエンジンはでき上がったものをすぐに見ることができます。
たとえば、本書ではライトが全部つけばオブジェクトが破壊されるという配列を作っていますが、ブループリントを組み立てればその場で見て挙動を確認できるんです。「Hello, world!」が表示されるより楽しいのではと思います。
――本書を読み終わった段階で、どれくらいのレベルになりますか?
荒川:ゲーム作りの基礎は固まります。それは、コンシューマやモバイル、VRなど、自分が作りたいゲーム分野を決めればGoogleで調べて作っていけるようになるということですね。
UEとUnity、それぞれに長所と短所が
――今だとゲームを作ってみたいと思った方はUEとUnityという大きな二つの選択肢がありますが、実際、どちらを選ぶのがいいのでしょうか。
荒川:皆さんとも環境や目的に合わせて選んでいただくのがいいと思います。
Unityの強みは、数万円のロースペックPCやノートPCで使えることが一つ。これは心理的にも経済的にも始めやすいという利点があります。また、利用者が多くコミュニティも活発なので、ネットに情報がたくさんあります。素材も手に入りやすいですね。とりあえずモバイルゲームを作りたいというのであれば、Unityを選んで間違いはありません。
UEの強みは、ブループリントさえ使えるようになればそれなりのゲームが作れてしまうことです。例として挙げると、キャラクターをジャンプさせたいとき、ブループリントでジャンプの関数を検索して追加してボタンに関連づければ、それで完了です。Unityだと着地判定までプログラムを書く必要があるなど複雑ですが、UEの場合は着地しているかどうかは自動で判定してくれるので、空中でジャンプしたら無限に飛び続ける、といったことはありません。
しかし、UEはこのように簡単なわりにまだネットにあまり情報がなく、自分で解決しなければならないケースが比較的多いでしょう。Unityと比べて安価なモデルデータが手に入りにくいという事情もあります。モデルデータの質自体は非常に高いのですが……。
こうした課題はユーザーが増えてコミュニティが活性化すれば次第に解決していくことですので、本書をきっかけにユーザーが増えるといいなと思っています。
あと、UEはゲームエンジンでありながらCGや映像作品を制作するためにも利用されています。ゲームだけではない、ということも覚えておいていただけるといいかもしれません。
UEコミュニティも拡大しつつある
――お話しいただいたように、Unityはコミュニティが盛り上がっている印象がありますが、UEはどうなのでしょうか。
荒川:Unityは無償で使えるゲームエンジンがほぼなかった時代の唯一の選択肢だったので、一日の長があるのは事実です。ただ、UEも、2015年に無料化されたのをきっかけに、コミュニティが拡大してきています。
UEを開発しているEpic Gamesはもちろんですし、UEでゲーム開発をしている会社、たとえばヒストリアなどもUE普及に積極的です。両社ともに代表が本書へ推薦文を寄せていただいています。
本書で使用しているモデルデータも、ポケット・クエリーズというゲーム会社に協力していただき、用意することができました。本書1冊を出版するだけでも、多くの方がサポートしてくださっているということは言っておきたいですね。
私が教えている学生でも、将来UEでゲーム開発をしたいという声はよく聞きます。実際、国内大手企業のいわゆる大作も多くがUEで開発されています。UEが使えればUnityも難なく使えるようになりますから、迷ったらUEを勉強しておけば損はないでしょう。
もちろん、仕事にするならC++などの知識も必要ですが、逆にプログラミングだけマスターしていてもゲームエンジンを使えないなら、ゲーム開発の仕事はできなくなってきています。
もっと気軽にゲームを作ってほしい
――仕事に限らず、趣味でゲームを作っている方も増えていると思います。手軽にゲームを作るソフトは他にもありますが、趣味で作るとしてもUEで大丈夫なのでしょうか。
荒川:大丈夫です。作ったゲームは様々な場所で発表したり販売したりすることができますからね。ヒストリアではUE4ぷちコンというゲームコンテストを開催されていますし、コミケで売ったりすることもできます。モバイルゲームなら配信まですぐにできます。
今は一昔前なら数百万円、あるいは数千万円もしたようなソフトウェアがどんどん無料で使えるようになっていて、使わないのが本当にもったいない状況です。ですから、私はもっと多くの人に、もっと気軽にゲームを作ってほしいんです。
そうした想いがあるので、本書でゲーム作りの楽しさ、そして実はそんなに難しくないということを伝えられればと考えています。UEであれUnityであれ、とにかく何かゲームを作ってみてください。