翔泳社が毎年開催している「ITエンジニアに読んでほしい! 技術書・ビジネス書大賞 2017」は、エンジニアが世の中を変えるために役立つ本を紹介し広めるために2014年に始まった。
今年で4回目となる同賞も事前の一般Web投票にて技術書部門、ビジネス書部門それぞれベスト10を選出。各部門で得票数の多かった上位3タイトルの著者や編集者が集い、「Developers Summit 2017」のセッションの一つとして本の魅力を伝えるプレゼン大会を開催。
盛況となった会場で最終投票が行われ、下記の2部門6タイトルから特別賞と大賞が決定した。
技術書部門トップ3
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『ゼロから作るDeep Learning――Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装』(2016年、オライリー・ジャパン)
斎藤康毅 -
『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』(2015年、SBクリエイティブ)
結城浩 -
『新装版 達人プログラマー 職人から名匠への道』(2016年、オーム社)
Andrew Hunt、David Thomas、村上雅章(翻訳)
ビジネス書部門トップ3
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『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』(2016年、文響社)
中島聡 -
『ITエンジニアが覚えておきたい英語動詞30』(2016年、秀和システム)
板垣政樹 -
『最強の働き方 世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓』(2016年、東洋経済新報社)
ムーギー・キム
作る体験はコピーできない
最初にプレゼンの場に立ったのは、『ゼロから作るDeep Learning』の著者である斎藤康毅さん。本書はビジネスの観点で話題に上がりがちなディープラーニングの技術を正面から捉えた1冊である。
従来、ディープラーニングの研究は大学を中心に行われてきたが、今では多くの企業がこぞって開発に注力している。だが、個人にはとても手が出せないように思われていた。その先入観を打ち破り、個人でもゼロからディープラーニングを作れるようになることが本書の目標だ。
斎藤さんはコンセプトに「作る経験」「動かす発見」「分かる喜び」を掲げ、物理学者リチャード・ファインマンの言葉「作れないものは理解できない」という言葉を引用。既存のライブラリやコードなどはできるだけ使わず、とにかく自分の手で作ってみることの大切さを詰め込んだとのことだ。
作る体験はコピーできない――何度も繰り返されたこの言葉に、斎藤さんの想いのすべてが詰め込まれている。
中学生でも読めるが内容は妥協しない
続いて、『暗号技術入門 第3版』のプレゼンが始まった。今回、著者の結城浩さんと担当編集者の野沢喜美男さんがあいにく出席できず、野沢さんからの手紙を司会の高柳謙さんが代読することになった。
本書は野沢さんがサイモン・シンの名著『暗号解読』(2001年、新潮社)に感銘を受けたところから始まった(文庫版で上下巻が刊行済み)。公開鍵暗号などやや難しい同書の内容を、よりわかりやすく噛み砕いて伝えるために書かれたのが初版の『暗号技術入門』(2003年、SBクリエイティブ)だ。
難しい数式の代わりに図表中心に解説すること、中学生でも読めること、しかし内容は妥協しないこと――当初掲げられたこの3点の約束事は、はたして結城さんの類い稀なる筆力によって達成された。
第3版への改訂にあたり、特にビットコインとそれを支える技術であるブロックチェーンについてが大幅に加筆された。今後、ビジネスどころか世界を変えるとも言われているブロックチェーンの解説により、本書の価値は大いに高まったと野沢さんは語る。
読むたびに発見がある
技術書部門、最後のプレゼンは『新装版 達人プログラマー 職人から名匠への道』の担当編集者である森田尚さん。本書は初版がピアソン桐原から2000年に刊行され(原著は1999年にピアソンから)、2013年に同社が技術書から撤退したことで絶版に。惜しむ森田さんらの苦心により、オーム社からの新装版刊行と相成った。
20世紀末の書籍の新装版、と聞くと、今さら読む人がいるのかどうか怪しく思える。だが、森田さんが言うように、本書は読むたびに発見があるとても奥深い技術書。アジャイルソフトウェア開発の提唱者であるベテランプログラマーが自身の培った経験を盛り込んだことにより、いつ誰が読んでもその新鮮さを失わない1冊に仕上がっているのである。
今では常識になっている技術もあるが、それは本書が紹介したことがきっかけになっているものも多い。2000年以降の技術――クラウドなど――には当然言及されていないが、何度も繰り返し読みたくなる本として、現代でも生き続けている名著だと言えるだろう。