外資系ベンダーの独占を阻止するためにもオープンな情報交換を
そこでドワンゴが開発・提供するN予備校アプリでは、教材とゲーミフィケーションを分離して開発・運用している。教材の製作は問題集の執筆経験のある予備校講師に依頼して、彼らが普段、制作している問題と同じやり方、なおかつ、スマホで見ること考慮にいれた授業のコンテンツフォーマットを開発した。一方、ゲーミフィケーション的な要素としてはN予備校アプリに講師と生徒、生徒と生徒の双方向コミュニケーションの機能を実装した。このようにすることで、教材と勉強の面白さを切り離して双方をそれぞれ柔軟に向上できる仕組みを実現している。
授業のコンテンツ作りはその道の専門家が行うことで、教材とコンテンツ・サービスを切り離して双方をそれぞれ柔軟に更新できる仕組みを実現している。
その結果、自由度の高いフォーマットで教材を作成することができ、センター試験レベルの教材をアプリを通じて提供できるようになった。同時に、仲間と一緒に学び合う感覚を得ながら学習効果を高められる「双方向生授業」や、先生に質問できる双方向コミュニケーション機能など、さまざまなアプリ機能を教材製作と切り離して柔軟に実装できるようになった。
「5年前からシステムの大きな進化はないものの、教材を適宜追加していくことで今でも最前線のデジタル教材の地位を確保できていると自負しています。おかげさまで多くの方に使っていただき、またN高等学校をはじめとする教育事業全体の損益分岐点も超えたため、(5年間、システムのアップデートは中断していたが)今後さらにN予備校の機能を進化させていきたいと考えています」
具体的には、IRT(項目反応理論)の手法を導入して、問題が異なるテストでも生徒の能力を短時間に公平に評価できる仕組みを確立していく。そのためには大量の問題を用意する必要があるが、これを実現することでN予備校アプリ上で模試相当の実力判定テストを自動生成・実施できるようになるという。
またLMS(ラーニングマネジメントシステム)の機能を強化し、ログデータを解析することで将来の学習時間の予測や、学習進捗度を管理できる機能の実装を目指す。さらには、アイトラッキングのデータを取り込み、外部のAIサービスと連携することで、より高度なデータ解析を行う計画もあるという。
こうした一連の仕組みを実現して教育の現場に根付かせるまでには、まだまだやるべきことは多いが、川上氏は「やるべきことは極めて単純で、本当はとっくに実現できていてもおかしくないことだ」と力説する。
「目標となる学習テーマを決めて、試験で現在の実力を判定し、必要な学習の内容と時間を割り出した上で、実際にその通りに学習してみて成果を実力判定する。この単純なサイクルをデジタル教材の上だけで回す仕組みは、技術的にはとうに実現可能です。しかしこのまま国内のEdTech業界の停滞が続けば、確実に外資に根こそぎ持っていかれてしまいます。そうならないために、ぜひ皆さんと一緒にオープンな情報交換を進め、保守的な教育業界に風穴を開けていければと考えています」
川上氏はこう語り、セッションを締めくくった。