DevNetを社内外に推進、「DevNet Partner of the Year」を受賞
ネットワンパートナーズ(以下、NOP)はシスコシステムズ(以下、シスコ)の長年のパートナーであり、情報インフラの販売導入支援や構築・サービス提供のプロフェッショナル集団となるネットワングループの一角をなす企業で、パートナー企業との協業ビジネスに特化しているのが特徴だ。
一方、シスコでは開発者の技術支援やコミュニティとして「Cisco DevNet」を運営してきた。プログラミング習得のための学習コンテンツのほか、「イノベーションチャレンジ」や「Meraki D-1グランプリ」といったコンテストも開催している。
NOPはCisco DevNetの趣旨に賛同し、コンテストに参加するだけではなく、独自の教育プログラムを運営するなど熱心に活動を続けている。そうした活動が評価され、2023年12月にはNOPは国内ディストリビューターとして初の「DevNet Partner of the Year」を受賞したほどだ。
シスコシステムズ パートナー事業 エコシステムパートナービジネス開発部長 山口朝子氏は表彰理由について「ディストリビューターとしていち早くDevNetの趣旨に賛同され、さまざまな施策に着手、進化し続けていることに敬意を表して決定したものです。例えば、プログラマビリティ・APIに関する技術者教育施策やリセラー様向けオリジナルコミュニティプログラムの発足など、実業務やビジネスへの適用を見据えて企業戦略として明確な中長期ビジョンを策定いただいています。これらのさまざまな活動を何年にもわたり継続的に行われ、Cisco DevNet普及に大きく貢献されました」とコメントしている。
実際、NOPでは活動成果は逐次、ブログ「ICT情報専門サイト パートナーBLOG」の「DevNet」カテゴリで公開している。ぜひご覧いただきたい。
山口氏が触れた「オリジナルコミュニティ」というのは「NOP DevNet コミュニティプログラム」だ。いわばCisco DevNetのNOP版。NOPでは開発者やインフラ技術者のためのプログラミングのコミュニティとして位置づけている。主にシスコ製品を対象にプログラミングで活用の幅を広げ、最近ではケーススタディのコンテンツ公開もしている。
このコミュニティプログラムではNOPパートナー企業に対して教育プログラムを提供している。例えばプログラミングを活用した価値創造についての座学講座や、プログラミング基礎トレーニング(API活用やPythonなど)があり、API開発を体験できるハンズオンも実施している。立ち上げから現在もコミュニティプログラムに携わるNOP 小松大輔氏は「盛りだくさんのプログラムとなっており、非常に有用なもの」と胸を張る。
なお、この教育プログラムは受講だけでは終わらないのも大きな特徴となる。NOPパートナー企業ごとに、習得した知識を用いて実業務に活用できる独自プログラムを開発し、最後に成果発表会を行う。技術者の勉強会ではよく「ブログを書くまでが勉強会」と言われるように、ただ講座を聞き、懇親会で歓談するだけではなく、学んだことをアウトプットすることが重要なのだ。
プログラミングスキル向上のため、若手向け教育プログラムを開発
NOPのDevNetに関する活動について、より具体的に見ていこう。
まずはシスコの主催するMeraki D-1グランプリ。NOP 窪田瑛氏は「Merakiを使って社会課題解決を試みようとする大会です。MerakiはAPIととても親和性が高いプロダクトです」と話す。2023年8月に開催された「第2回 Meraki D-1グランプリ」では、「NOP D-1チーム」として参戦し、Meraki MVカメラを活用したスマートオフィスソリューションのためのプロダクトを発表した。
これはオフィスにあるMeraki MVカメラで顔を認識すると、顔認識により社員を判別したうえで該当人物のMicrosoft 365予定表を読み込み、オフィスに設置された自動移動型ロボットが次のミーティングの会議室を案内するなど、カメラの顔認識と予定検索とロボットを連動させるなど高度な内容になっている。カメラが人物検知するとAWSのAPI Gatewayを経由してLambdaで処理するため、クラウド環境はAWSを使用し、プログラミング言語はPythonで書いている。この作品は「未来の働き方賞」を受賞した。
またNOP社内向けの取り組みとしては、若手を対象とした長期(約1年)の教育プログラムがある。NOPのなかでもかなり力が入っている活動となる。
若手だとIT未経験者もいるため、プログラミング実践はハードルが高いと言える。だがNOP窪田氏は「若手のうちから苦手意識を取り払ってもらうことで、自動化の楽しさを感じてもらいたいと思っています。若手がプログラミングスキルを習得することで、配属先で自動化実現のリードとして活躍してもらえるとうれしい」と狙いを明かす。
この若手向けの教育プログラムは近年ブラッシュアップしてきたプログラムでもある。もともとNOPはネットワークやインフラ寄りの企業なので、プログラミングに知見を持つエンジニアは多いほうではない。ゆえに実務を通じて先輩が後輩に技術を伝授することは難しい。しかしこれからのネットワークエンジニアはプログラミングスキルを習得する必要があるため、教育プログラムを企画することになった。
若手を対象にした理由は「若手のほうがスケジュールを押さえやすい」という実現しやすさに加えて、先輩に刺激を与える狙いもある。窪田氏は「若手ができるのを見て、先輩が『自分もがんばらないと!』という意欲を喚起しようと思いました」と話す。
他にもコロナ禍ならではの理由もあった。対面のコミュニケーション機会が限られ、若手は先輩や上司に話しかけづらい状態にあった。小松氏は「先輩が持っていないスキルを若手が持つことで、コミュニケーション活性が図れると期待しました」と話す。例えばチームや先輩が困っている時に「それ、私できます。プログラミングを習いましたから」と話しかけるきっかけになる。
取り組みは2019年からスタートした。当初は外部のPythonトレーニングを受講しに行ったものの、翌年からはコロナ禍になってしまい、継続できずにいた。そんななか前職でプログラミング経験がある小松氏が簡易的なトレーニングを作成して部内で実施したところ、好評を博し、以来毎年ブラッシュアップを重ねている。教育プログラムが現在の形にまとまったのは2021年だ。
卒業制作として、業務に役立つソリューションを開発
若手向け教育プログラムは前半が講義、後半が卒業制作で構成されている。
前半はプログラミング基礎講座で、まずはPythonを基礎から学び、コーディング環境を準備したら実習を行う。実習ではPythonプログラムでAPIをコールして、コミュニケーションツールのWebexにメッセージを投稿するまでを体験する。
初年度は小松氏が白紙から手作りし、翌年以降はどんどんブラッシュアップを続けている。2023年のブラッシュアップを担当したのは窪田氏。前年(2022年)に受講し、その記憶が新鮮なうちに改善した。
主な改善点は2点あり、1点目はネットワークエンジニア向けにフォーカスしたこと。小松氏が作成したオリジナルはソフトウェアエンジニア向けで、システム開発要件定義から保守運用までの流れ、ウォーターフォールやアジャイルなどの開発方式なども盛り込まれていた。しかしネットワークエンジニアがPythonプログラミングを学ぶという前提に立ち返り、不要なものはそぎ落としていった。
2点目はネットで公開されている教材を活用して演習問題を厚くしたこと。NOPが着目したのは会津大学が提供しているプログラミング問題のオンライン採点システムだ。それぞれのレベルに合わせてプログラミング演習できるものになっており、国内外6万人がユーザー登録して活用している。
後半の卒業制作ではMerakiをはじめとしたNOPが扱う商材を対象に、APIを連携させて新たなソリューションを開発する。商材を活用しやすいように製品担当SEからアドバイスをもらえるようにするなど社内のフォロー体制を整えた。
2023年に受講した若手、入社2年目の橋本玲氏と飯塚凜々子氏に感想と成果を聞いてみよう。二人とも2023年12月までQA対応業務を行う傍ら、教育プログラムを受講した。飯塚氏は、教育プログラムに期待したこととして「社会のさまざまな場面で人材不足が問題視されています。IT業界でもまだ手作業が多く残るなか、プログラミングで工数削減し、働きやすい環境作りや社会問題改善のきっかけとなればと思いました」と話す。
橋本氏が作成したのは「Arrivalert」、意味は到着「Arrival」と通知「Alert」を組み合わせたもの。所定の位置に到着したらWebexのチャットに自動送信する。ここではiPhoneの位置情報から勤務先のビルに接近したら出勤、離れたら退勤とみなして、Webexの勤怠ルーム(チャット)に自動投稿するようにした。
所属チームではWebexの勤怠チャットルームがあり、出勤すると「業務を始めます」と投稿するようになっている。これを自動化しようと試みた。橋本氏は「一度作成すると、その後は自動化できて楽になりました。同じチームの人にも試してもらって、すごいねと感想をいただきました」と話す。
実際に試したところ、昼休みにオフィスを離れる時にも退勤の通知が飛んでしまったり、範囲を広げてしまうと電車に乗っているときにオフィスの最寄り駅を通過するだけで通知が飛んでしまったりするなどの想定外の動作も体験した。今後は位置情報に加えて、社内Wi-Fiに接続することを条件に加えて改善を試みようとしている。
飯塚氏が作成したのは「EzReg」、意味は簡単に「Easy」と登録「Registration」を組み合わせたもの。Cisco ISE(Radiusサーバ)への認証対象ユーザの登録を楽にするソリューションで、Excelに記載したユーザー情報をPythonで読み取り、API経由でCisco ISEに自動で登録する。通常は手作業なので自動化することでミスや工数を減らすことが可能となる。
飯塚氏は「1人分の登録は成功したものの、複数人を一括登録するとエラーが起きてしまい、原因の切り分けに苦戦しました。APIで一括登録する場合には特殊な権限が必要だということが判明しました」と苦戦の過程を語る。今後はユーザーのリストと、登録済みのリストを照合し、不要ユーザーの削除を自動化したり、他の機器にも応用したりすることで実用化を目指している。
二人ともプログラミング未経験から業務に役立つ機能を開発できて、いい成功体験になったようだ。
小松氏は「教材はブラッシュアップにより完成度が高まってきたので、今後は扱うプロダクトを広げてソリューションを開発し、社内外にアピールしていきたいです。また自社だけでのアプリ間連携や自動化等のプロトタイプ開発だけではなく、パートナー企業様と共創の場を広げてより良い関係構築ができたらうれしいです」と取り組みをプログラムスキル向上からパートナー企業との共創へと広げていく展望を語った。