LLMを活用して疑義照会文を自動作成する方法
LLMによる疑義照会文の自動作成は、以下のステップを踏む。
まず、処方箋情報から医薬品の処方情報を抜き出して構造化する。このときに使用するのが、Azure Open AI ServicesのGPT-4 for Vision API(GPT-4V)だ。従来のOCR AIが位置ベースで文書構造を読み取るのに対し、GPT-4Vは意味のまとまりで読み取ることができるのがメリットだ。処方箋の形式は医療機関によってまちまちなので、従来のOCRでは意味のある単位での抽出が難しかったが、GPT-4Vによって精度の高い読み取りを実現できたと、上野氏は言う。具体的には、100枚中1~2枚誤りが出る程度とのことだ。
次に、抽出した情報のJSON化を行う。GPT-4Vでは、抽出した情報を直接JSON形式で出力できるか担保されていないので、現状ではGPT-4 Turboを経由して変換する必要がある。上野氏は「今は2種のAPIを併用しているが、いずれはGPT-4VにJSONモードが実装され、よりシンプルなフローを実現できるのではないか」と今後に期待する[1]。
そして、JSONの医薬品名をもとに、法定処方量が記載されている添付文書を取得する。実際には、事前に独立行政法人 医薬品医療機器総合機構がWeb上に公開している添付文書をスクレイピングし、データベースに保存してある。処方箋をJSON形式に変換した後、その医薬品名を使ってデータベース内を検索し、該当する添付文書を取得する。
最後に、GPT-4 APIで、処方情報と添付文書を比較させ、医師に問い合わせるべき内容を出力する。自動作成した文章はSlackへ投稿され、それを薬剤師がチェックした上で、医療機関へ問い合わせる。
上野氏によれば、疑義照会を半自動化した結果、軽微な処方箋のミスについては、薬剤師が軽くチェックすれば医師に送信できるレベルにまで到達したという。また、フローを1周するのに掛かる費用は10円程度だ。これは薬剤師の人件費を考慮すると、十分に見合うコストとなっている。
このフローを構築するに当たり、さまざまなマルチモーダルLLMを比較したが、2024年2月時点では、GPT-4Vの読み取り精度がもっとも高かったそうだ。「GPT-4Vは日本語が不得意という情報もあるが、今回のように様式化された文書であれば、形式がさまざまであっても、問題なくデータを抽出できた」と上野氏は言う。
LLMの活用事例、薬剤師によるチャット相談を支援
次に上野氏が紹介したのは、YOJO事業における薬剤師とのオンライン相談におけるLLMの活用事例だ。具体的には、チャットの回答をLLMが自動作成して、薬剤師に提案してくれるものだ。
YOJOの特徴を一言で言えば、相談型の医療体験だ。主なユーザーは、漢方薬に興味がある女性だ。一般的なECサイトでも漢方薬は買えるが、自分に合った薬を見つけるのは難しい。そこでYOJOは、体調不良などさまざまな悩みを、薬剤師に気軽にいつでも相談でき、個々の体調に合わせた漢方薬を提案するサービスを提供している。さらに、数ヶ月間服用した後、症状に変化があった場合には、それに応じて別の薬を提案するなど、長期にわたる継続利用を想定している。
そしてYOJOでは、薬剤師がチャット対応する際に、回答内容をLLMでサジェストする機能を開発した。薬剤師が管理画面で「作成可」ボタンを押すと、ユーザーへの返答についてのサジェストが作成される。以下の例では、むくみが気になるユーザーに、選択肢でむくみやすい箇所を尋ねている。LLMが、それまでの会話の流れと、ユーザーが選んだ選択肢を理解した上で、回答を作成していることが分かる。