CTOを名乗るまでの道のりと意識の変革
CTOという役職について、多くの人は「高度な技術力が必要」「経営者のようなスキルが求められる」といった先入観を抱いているかもしれない。しかし、だむは氏が取材した実際のCTOたちのキャリアには、多様な背景がある。
株式会社ログラスのいとひろ氏、LayerXのあらたま氏、株式会社Awarefyの池内氏、iCAREのクドウ氏—―彼らがCTOとなった道のりはさまざまだが、共通しているのは「明確な目標を掲げてCTOを目指した」わけではなく、状況や環境の中で自然とその役割にたどり着いたことだ。
一方、だむは氏自身は独立系SIerでキャリアをスタートし、転職を重ねながら大規模プロジェクトや開発スキルの向上に取り組んできた。25歳で「30歳までの目標」を設定し、「自分で立てる仕事」を求めて受託開発に挑む中で、女性エンジニア向けの1on1サービスを個人開発。この活動が注目を集める中、28歳でフリーランスとして独立し、その半年後にbgrass株式会社を創業。ジェンダーギャップ解消に向けた活動を本格化させた。
だむは氏がCTOを名乗り始めたのは、起業から2年目のことだった。bgrass株式会社の創業者兼代表としてプロダクト開発や事業運営のすべてを担っていたが、「CTO」と名乗ることには抵抗を感じていたという。その理由は、起業間もない段階でこの肩書きを掲げることへの違和感と、「自分にはその資格がないのではないか」というインポスター症候群だった。
転機は2023年に訪れた。前述の「AWS CTO Night & Day」の会場にいた約200人のうち、女性はわずか4人。この現実に直面し、だむは氏は「この業界で声をあげるのは、今は私しかいないかもしれない」という思いに突き動かされたのだ。自らの信念を貫き、背中を見せることで、次世代の女性エンジニアたちに新たな可能性を示す――その使命感が、だむは氏が「CEO兼CTO」という肩書きを掲げる大きな原動力となった。
「(自身のキャリアは)あくまでも平凡だと思う。SIer出身でWebの受託開発を経験し、転職を重ねながら起業に至り、CTOになった。多くの方と似たキャリアでCEO兼CTOとして活動していることを、今日は伝えたい」(だむは氏)
CTOと名乗り始めたことで、「事業や社会に与える影響が大きく変わった」とだむは氏は語る。CTO協会への参加やイベントへの招待が増え、ジェンダーギャップ解消の啓蒙活動について多くの場で発信する機会を得るようになった。「おかしいと思っていなかったことに気づいた」という声を周囲から引き出し、意識を変えるきっかけを生むことができたのは、大きな成果だった。
個人としてはWomen In Tech 30に選出され、CTOとして自信をもって活動する姿勢が、ジェンダーバイアスを乗り越える道を切り開いた。「CEOで女性というだけで、どうしてもバイアスがかかり、軽視されがちな場面があった。しかし『CTOも兼務している』と伝えると、相手の意識が大きく変わった。その結果、自分の強みを堂々と主張できるようになったことは、非常に大きな変化だった」(だむは氏)