技術書のネタ探し、どうする?――過去の経験と"怒り駆動開発"
本セッションでは、「まだ技術書を書いたことがない人」が抱えがちな悩みをテーマに、登壇者たちの経験を交えながら議論が展開された。
最初のトピックは、「書けるほどのネタがない」という問題。これに対し、パネリストの高橋氏、野溝氏からそれぞれのアプローチが語られた。
高橋あおい氏は、新卒でソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、転職を経て現在は教育系プロダクトの開発現場でSREとして活躍している。2024年4月には、翔泳社から『つくって、壊して、直して学ぶKubernetes入門』を出版。同書はKubernetesの概念や仕組みを学びながら、実際に手を動かして試行錯誤するスタイルが好評を博している。
また高橋氏は技術同人誌の分野でも積極的に活動しており、特に漫画形式でわかりやすく技術を伝える手法が注目されている。最近ではエッセイ形式の書籍にも挑戦し、幅広いアウトプットを展開中だ。
そんな高橋氏は、自身が技術書を書き始めたきっかけについて、「本を書きたい」という目的から逆算して技術の勉強を始めたことを明かした。初めての技術書執筆時、高橋氏はレガシーな技術が多い職場にいたため、執筆する題材に悩んでいたという。しかし、「どうしても(技術同人誌イベントである)技術書典に出たい」というモチベーションを原動力に、Kubernetesという、当時は自身が未経験だった技術の勉強を始め、その内容を基に執筆をスタートしたのだ。意外な動機に、野溝氏からも驚きの声が漏れた。
「興味のある技術があれば、たとえ仕事で直接使う機会がなくても、本を書くために勉強してみるのも一つの方法だと思う。執筆を通じて得られる学びは、単なる勉強を超えた価値を持つ」。高橋氏はそう語る。学びとアウトプットを一体化させた、高橋氏独自のアプローチだ。
一方、「『昔の自分が知りたかったこと』を題材に選んでいる」と語るのは野溝のみぞう氏だ。
野溝氏はサイバーセキュリティ分野で活躍するエンジニアであり、特に「攻撃系」のセキュリティに情熱を注ぐ。趣味が高じたものだというが、現在はその知見を活かし、女性向けセキュリティコミュニティ「CTF for Girls」の運営にも携わっている。
将来の夢は「スーパーハッカーになること」。専門知識の普及活動にも真剣に取り組む一方で、「組版」という紙面レイアウトの技術を得意とし、視覚的に美しく整理された書籍作りを展開している。
野溝氏によれば、エンジニアとしての経験を振り返り、自分が初学者だった頃に困ったことや欲しかった情報を思い出すことで、執筆の方向性が見えてくるという。自身が独学する中で生じた「こう教えてほしかった!」という"恨み"を、技術書という形でアウトプットしてきたのだ。そのため、執筆する際には過去に苦労した経験を振り返り、読者が同じ苦労をしないよう補足情報を丁寧に盛り込む工夫をしていると付け加えた。
この工夫には、高橋氏も共感。「私も、(技術が)分かりづらいという"怒り"が執筆の原動力になり、本を書くことで消化している面がある。まさに"怒り駆動開発"だ」とユーモアを交えながら語った。
高橋氏はさらに、自著で描かれるキャラクターやストーリーの背景にも触れた。例えば、上司が無茶な要求をするシーンは、自身の過去の職場経験を元に「現場のあるある」を込めたという。これにより、作品が単なる技術の解説にとどまらず、読者が共感できる物語にも昇華されているのだ。