技術スタックの選択と生成AIならではの課題
PROACTIVE AIの開発は、エージェントAIの課題や未来を改めて考えるきっかけになったとSCSK 技術戦略本部デジタル推進部 開発第一課の稲荷平駿稀氏は述べる。

開発にはPythonを使用したほか、主要ライブラリにはLangChainとLangGraph、LLMモデルはOpenAI、エージェントの状態保存にはPostgreSQLを採用した。LangGraphは、複数ノードからなるマルチエージェントシステムを構築できるフレームワークで、ルーターがタスクの実行順序を整理し、各エージェントやノードに割り振ることで、自律的にワークフローを回すことができる。「Subgraphによる階層構造が構築できるので、各エージェントをカプセル化して分担開発しやすかったこと。また、状態管理に基づくワークフロー制御が得意なので、データサイエンティストのデータ分析計画や実行プロセスを順序だてて適切に制御するといった我々のニーズにぴったりはまった」とLangGraph採用の理由を稲荷平氏は説明する。

開発を進める中で、稲荷平氏はいくつかの課題に直面したという。
1つは、SQLクエリの生成だ。PROACTIVE AIは、ユーザーから受けた相談をもとに必要なデータを定義し、適切なデータを取得するためのクエリを生成。PROACTIVEと連携するデータベースから情報を取得する。しかし、正しくデータを取得するためのクエリを書くには、データベース内のどのテーブルやカラムに必要なデータが格納されているかをAIに理解させる必要がある。問題は、これらのテーブル名が人間にとっては分かりやすくても、AIがそれを適切に解釈できるとは限らない点だ。「AIにも理解しやすいように、各テーブルにどのようなデータが含まれているかを示すメタ情報を付加する必要があった」(稲荷平氏)

また、すべての生成AIで該当する話だが、目的や必要なデータが明確でないと適切なクエリを生成できないことも分かった。これについては、ユーザーの初期入力をそのまま処理するのではなく、対話しながら目的や必要なデータ、集計の観点を明確化するフローを組み入れて対処したという。
2つめは、LLMを用いたクエリ生成やデータ分析の施策設計といった高度な処理により、LLMの生成に時間がかかりすぎたり、APIの利用料金が増加したりする課題だ。これらは、ユーザーエクスペリエンスやサービス利用料金の設定に直接影響を及ぼす問題だ。対策として、稲荷平氏たちはプロンプトの調整による生成内容の短縮を実施。LangChainを活用し、出力パーサーを利用してあらかじめ決められたフォーマットのみを出力させたり、JSON出力時にstrictモードを設定して特定の項目しか生成しないよう制限をかけたりするなどの方法で対応した。
開発を通じて見えてきたAIエージェントツールの今後の課題
開発を通じて、稲荷平氏は3つの重要な知見を得たと言う。

1つめは、業務サイクルを回せる業務遂行パートナーとして、ユーザーが欲しているもの・解決すべき課題の提案を行えるUI/UX設計を行い従来のチャットボットを超える必要性がある。
2つめは、AIエージェントはあくまでも課題を解決するための手段の一つに過ぎないということだ。ユーザーのニーズを把握し、そのニーズに応えるために必要なワークフローを整理する作業は、従来と変わらない。こうした基本的な部分をしっかりと理解した上で、適切にAIエージェントを設計・実装していくことが重要だと改めて認識したと稲荷平氏は話す。
3つめは、LLMの生成時間との向き合い方である。処理時間のロスを考慮したとき、人間とAIエージェントの役割分担をどう最適化するかが課題となる。「新しい技術が登場すると、高確率でUXの問題もセットで発生する。本番リリース前にこうした課題をしっかりと洗い出し、解決するプロセスが欠かせないと実感した」(稲荷平氏)
今後は、AIエージェントをさらに活用し、より柔軟な分析対応や外部データとの連携強化、ダッシュボードの自動生成など、新たな機能の提供を進めていくと明かす両氏。AIエージェントをどこまで進化させることができるか、挑戦は続く。
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