開発チームと協働するフラットなQA体制の設計方法
QAチーム立ち上げで池田氏が特に重視したのが、開発チームとの関係整理である。まず責任分界点を明確にするため、「テストの計画と実施」「品質の状況の可視化と報告」「品質・開発プロセスの改善」「テストの効率化と仕組み化」の4項目に分けて、実行責任と最終責任を表で整理し、合意を取るプロセスを設けた。
QAチームが品質情報を提供する一方で、リリース判断の最終責任はエンジニアリングマネージャーが持つという役割分担をした。「プロジェクトごとの不具合起票数と平均値との比較情報は提供しますが、リリース延期などの最終判断は現状QAチームでは行いません。ですが、組織のフェーズなどで変わる可能性があると考えております」と池田氏は説明する。
協働体制構築でもう1つ重要だったのが、既存の開発フローとの親和性確保である。「なるべくエンジニア側の習慣を崩さないようにしたい」という方針のもと、QAチーム独自のツールを導入するのではなく、開発チームが普段使っているツールに合わせる選択をした。
従来はNotionで行っていたテスト設計のレビューを、エンジニアが慣れ親しんでいるGitHubのレビュー機能に移行。また、不具合が発見された際の修正依頼についても、開発チームが日常的にタスク管理で使用しているLinear(プロジェクト管理・課題追跡ツール)で起票することで統一した。さらに、Linearで不具合が起票されると自動的にSlackにメンションが飛ぶ仕組みも整備し、エンジニアのコミュニケーションハブであるSlackに情報を集約した。
「開発組織へQAチームの浸透を図るため、設計からリリースまでの既存フローを最大限に流用し、エンジニアの習慣変更を最小限に抑えるように心がけました」と池田氏は方針を語る。
この取り組みの結果、上下関係やチームの隔たりなくフラットな協働関係を築くことができた。また、開発チームとの垣根をなくし「ワンチーム」として機能するため、QAメンバーがバックエンドエンジニア相当の知識を習得できる独自の研修プログラムを構築中だ。バッチ処理やSQLといった実務に直結する技術を体系的に学ぶことで、単なる画面上のテストにとどまらず、システム全体を理解した上で開発チームと同じ目線で課題解決できる人材の育成を目指している。
AI活用でテスト設計を30%高速化。未経験者の即戦力化方法
QAチームの効率化において大きな役割を果たしたのがAI活用である。特にClaude Codeの導入により、テスト設計業務で顕著な成果を上げている。
「Claude Codeを使ってテスト設計をする前とあとで比較すると、おおむねスピードは30%程度向上しました」と池田氏は効果を共有した。
未経験者育成における効果もあった。未経験者が1か月目からテスト設計業務を担えるようになった例もある。「専門的な知識が不足していても、Claude Codeによってルールが体系化されているため、大まかな指示を与えるだけでも、要求に合致するアウトプットが得られます。そのため、未経験者でも早期にスキルを習得できるようになりました」と池田氏はAIの教育効果を評価する。
AIによる育成手法も確立した。「なるべく早い段階でAIのツールを使ってもらうようにしよう」という方針のもと、新メンバーはDevin(AIコーディングエージェント)に仕様を質問しながら設計を進めることができるようになった。Devinは自然言語でのやり取りが可能だ。コード生成から調査まで幅広い開発業務をサポートできるため、未経験者がプロダクトの仕様を理解する際の頼りになる存在となっている。「メンターのような役割をAIがしてくれています」と池田氏は表現する。
なお、toridoriでは2025年8月からAI活用補助制度を導入しており、従業員が希望するAIツールの導入費用を月額最大200米ドルまで補助している。池田氏も「AIのツールの導入に積極的であり、選べるツールが多いです」と語る。そんな環境が、QAチームの効率化、プロダクト品質の向上を後押ししているのだ。

