サイバー攻撃でシステム全焼。レガシーシステム刷新までの物語
最初に登壇したのは、高温高圧バルブを製造する岡野バルブ製造で2021年から取締役を務める菊池勇太氏だ。同社の主軸は、強力な高温高圧バルブであり、岡野バルブ製の製品を50年以上使用するプラントもあるという。
伝統ある企業に、外部から加わった菊池氏。「就任後に初めて社内システムにログインしたところ、見たこともないほど古い画面に驚きました」と当時を振り返る。
実は当時の岡野バルブでは、代表の岡野武治氏が自身の知見で改革を試みたものの、情シス側が安全面などを理由に、従来の運用方法を容易には変えようとしなかったという背景があったのだ。
しかし長年続いたシステムとの闘いは、1通のメールに仕込まれたランサムウェアによるサイバー攻撃で幕を閉じた。ウイルスで社内システムが焦土化し、システム内のほぼ全データが消失。2億円ほどの損害を出した。
菊池氏はこのトラブルについて「社内システムは、増改築を繰り返して『ハウルの動く城』と化していた。火災で燃えて更地になったので、新築を建てようという話になった」と回顧する。
ランサムウェアという業火に焼かれ、一瞬で消えてしまった社内システム。会社は再起をかけて市販のSaaSを導入し、業務の標準化を目指した。しかし、サイバー攻撃後も残った「独特な運用ルール」が障害となり、経費精算などの経理業務はかえって煩雑化した。
レガシーな「システム」が消え去った後に待っていたのは、レガシーな「ルール」との新たな戦いだったのである。
数年間に及ぶ改革の中で、管理・総務部門のDXは進んだものの、製造現場の壁は想像以上に厚かった。現場のデータは扱いづらい形式で散乱しており、それを整理する仕組みすらない。そもそも「データを活用する」という考え方そのものが浸透していなかった。
その結果「社外SaaSの導入から1年経っても現場では苦戦している」ようなシーンも散見され、現場と歩調を合わせることが至上命題だった。
それでも、自身が取締役に就任してからの4年間で「ようやくデジタル化の第一歩ができてきた」と語る菊池氏。今後はデータの蓄積や読み込みを行い、データ活用に入っていくという青写真を描いている。
今後の鍵として、菊池氏は「AIエージェント」の活用を挙げた。長年にわたって増改築を繰り返してきたレガシーな会社だからこそ、無理に一つにまとめるのではなく、部署ごとに「ローカルなシステム」を作り、そこにAIを導入していく方が合っている。 そう結論づけ、現在は現場単位でのAI活用に取り組んでいる。企業風土は大きく変えずにAI活用を目指す意欲を見せた。
