AI時代のエンジニアの役割は有用性よりも「責任」である
株式会社X-Tech5の取締役CTOであり、株式会社iCAREの技術顧問も務める馬場俊彰氏。専門はSREを軸とした信頼性領域で、モニタリング、パフォーマンスチューニング、インフラ運用といったテーマに長年取り組んできた。Webパフォーマンスチューニングの通称「ISUCON本」の執筆参加など、現場の実践知共有における貢献でも知られる。
馬場氏が刊行した『バックエンドエンジニアのためのインフラ・クラウド大全』は、インフラとクラウドを横断しつつ、バックエンドエンジニアが非機能要件や信頼性と向き合うための知見をまとめた1冊である。本セッションではその内容をもとに、「AI時代に何が変わり、何が変わらないのか」が再提示された。
生成AIに対する馬場氏自身のスタンスは、「AIは夢のように便利な存在」であり、できることは積極的に任せたいというものだ。自分の手で実装することは好きだが、手を動かすこと自体に過度な執着はない。役割として仕事を委譲する立場にある以上、委譲先が人間であれAIであれ、本質は変わらないと割り切る。この姿勢は、「AI=人間の仕事を奪う脅威」という単線的な語り口とは一線を画している。
では、AIにできないことは何か。馬場氏はその問いに対し、「責任を取ることだ」と明確に答える。責任とは、人が人に対して負うものであり、AIが主体的に引き受けられるものではない。だからこそ、エンジニアがプロフェッショナルとして担うべき役割は、単なる作業の遂行ではなく、説明責任を果たすことにあるというのだ。
さらに馬場氏は、説明責任の対象を狭く捉えるべきではないとも指摘する。同僚や上司、ユーザーに対する責任はもちろんのこと、社会や未来に対する責任も内在しているという見解だ。IT業界がしばしば社会から批判的に見られる背景には、この視点の欠如があるという。目の前の利害関係者だけでなく、目の前にいない他者や将来の世代も含めて視野に入れる姿勢こそが、プロフェッショナルとしての最低条件というのが馬場氏の主張だ。
とはいえ、すべての責任を1人で引き受けることは不可能である。そこで重要になるのが、自分なりの「軸」を立てることだ。どの観点を重視し、どのような責任を果たすのか。これらを言語化し、説明できる状態をつくる。その姿勢が信頼につながる、という整理である。
ユーザー価値や責任を捉える枠組みとしてしばしば用いられるのが「機能要件/非機能要件」だ。しかし馬場氏は、この分類が作り手側の論理に寄りすぎている側面があると疑問を呈し、代替の見取り図として「有用性」と「保証」を紹介した。
ITIL 4にも登場するこの考え方では、「ユーザー価値は機能的な有用性だけでなく、安心できる、信頼できるという保証そのものにも宿る」と捉える。では、そうした価値を提供できるエンジニアになるには、どうすればよいのか。
