エンジニアの地力は何で決まるのか──ユーザー価値を形づくる「保証」要素
真に求められるユーザー価値を実現するために、エンジニアに求められる「地力」とは具体的に何を指すのか。馬場氏はこの問いに対し、先ほど示した「有用性」と「保証」を手がかりに、その輪郭を明らかにしていく。
まず有用性とは、生産性の向上や「これまでできなかったことができるようになる」といった、機能的な価値を指す。この領域について馬場氏は、「近年、生成AIが急速に力を発揮し始めている分野だ」と述べる。従来はエンジニアが担ってきた作業や判断が、AIによって代替・支援される場面は確実に増えているというのだ。
対照的に語られるのが、「保証」の領域である。安心できる、信頼できるという価値は、果たして生成AIが容易に実現できるのか。馬場氏はこの問いに対し、「はなはだ疑問だ」と述べる。ユーザー価値に顕著な差が生まれるのは、保証をどこまで実現できているかであり、AIにはまだ荷が重い。つまり現在はこの部分で、エンジニアの地力が問われるというのだ。
馬場氏は「保証」にあたる要素として、信頼性、可用性、キャパシティ、パフォーマンス、セキュリティ、持続性を挙げる。いずれもインフラやクラウドと深く結びついた非機能的な特性であり、表面的な機能実装だけでは決して達成できない領域だ。
なかでも持続性は、単なるシステム寿命の話にとどまらない。たとえば、「射幸心を過度にあおらない設計になっているか」といった消費者保護も含まれる。グレーゾーン、あるいは明確に違法なサービスが容認されないのはもちろんのこと、一見魅力的に見えても持続不可能なビジネスモデル(たとえば、容量無制限の定額ストレージ)がなぜ問題になるのかについて、理由を技術的に理解し、回避策を講じることもエンジニアの責務である。価値がなければサービスは持続しない。そして持続させるためには、必ず技術的な工夫と実装力が求められる。エンジニアはその点に無自覚であってはならない、という問題提起だ。
ここで馬場氏は、人が意思決定を行う際の構造を整理した。人は基本的に「知識」と「価値の認識」をもとに物事を判断する。知識とは、仕組みや法律、仕様といった客観的に定まった事実であり、これに基づく判断は論理的判断と呼ばれる。一方、価値の認識とは、誰にとって何がどれほど重要かという基準であり、こちらは倫理的判断に近いものだ。
馬場氏は、両者の重要性は同等だとしたうえで、「難しいのは価値の認識だ」と指摘する。価値の認識は局所性が極めて高い。たとえば大企業と中小企業では1円の重みが異なるし、同じプロダクトであっても、PMF(プロダクトマーケットフィット)前後ではパフォーマンスやスケーラビリティに対する感覚が大きく変わる。
「それでもなお、エンジニアは知識と価値の認識を両立させ、保証要素を実現しなければならない。難易度は高いが、そこまでやり切るからこそ、自らをエンジニアだと胸を張れるし、他職種や社会から『あのエンジニアが見ているなら安心だ』と信頼される存在になれる」
馬場氏はそう述べ、保証を実装する力こそがエンジニアの専門性であり、AI時代においても揺るがない価値の源泉になると強調した。
