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Developers Summit 2025 Summer セッションレポート

AI時代でも揺るがないエンジニアの地力とは──“定点観測会”で育てる保証力

【17-B-9】AI時代にも変わらぬ価値を発揮したい: インフラ・クラウドを切り口にユーザー価値と非機能要件に向き合ってエンジニアとしての地力を培う

地力を鍛える最強の実践方法は「定点観測会」

 では、「保証」を実装できるエンジニアの地力をどう獲得するか。この問いに対し、馬場氏は4つの実践指針を提示する。場数を踏むこと、データと向き合って深く考えること、対話すること、そして継続することだ。

 実践のアプローチは大きく3つに分かれる。ひとりで取り組む独習、読書会やトレーニングといったOFF-JT、そしてOJTや実務そのものだ。なかでも馬場氏が「最強」と断言するのが、OJTにあたる定点観測会である。定点観測会とは、運用中の実システムを対象に、実データを継続的に観測し、チームで議論する場を定期的に設ける取り組みだ。

 その理由について馬場氏は、「体験が本物だからだ」と説明する。リアルなシステム、リアルなデータ、リアルなコンテキストの中で、実際のバグや制約、トレードオフが可視化される。その前提のもと、チームが本気で課題を議論できる。さらに、定点である以上、サイクルを決めれば必ず次が来る。最初は何もできなくても、機会が途切れない「継続の仕組み」を内包している点が強みだと述べた。

定点観測会が最強のOJTエンジンである
定点観測会が最強のOJTエンジンである

 定点観測会を続けることで、自然と場数が増え、データを材料に深く考える習慣が身につき、対話が生まれ、結果として継続しやすくなる。4つの要素を同時に満たせる点を、馬場氏は高く評価する。保証は純粋な技術問題ではなく、価値判断と不可分であるという主張が、具体的な実践として示された格好だ。

 さらに馬場氏は、定点観測会に他ロールを巻き込むことを強く推奨する。セールス、カスタマーサポート、カスタマーサクセスが参加すると、エンジニアが見ている数値と、ユーザーが受けている影響とが大きく乖離していることが明らかになる場合があるという。馬場氏は「定点観測会が一番好きな理由は、別ロールと会話できること」と語り、そこで擦り合わされた価値観が、プロダクトや会社全体の判断軸に育っていくと話した。

 定点観測会の運用方法は、二段構えで示された。腰を据えて取り組むなら週1回30〜60分。事前にグラフを眺め、気になる点を持ち寄り、Biz/Dev/Opsで議論する。SLO(サービスレベル目標)などの指標を扱っていても、短期的な増減に一喜一憂せず、長期視点で捉える姿勢が重要だという。一方、軽く始めるなら週1回15分。ロードバランサーなど外周のシグナルとコストを確認し、共有するだけでも意味があると述べる。

 馬場氏が最も重視するのは、「定点観測会を価値観のすり合わせの場にする」点だ。同じ事象でも、チャンスと捉えるか、危険信号と見るかは人によって異なる。経験や立場、過去の失敗によって、不安の閾値は違うからだ。その違いを無視すると、声の大きさによって意思決定が歪む。だからこそ、事実を起点に対話し、価値観を共有したうえで、採用・不採用を決めるプロセスが不可欠だという。定点観測では、議題がデータから自然に立ち上がるため、議論の種に困らないという利点もある。

 継続のコツについて馬場氏は、「最初と最後は根性と執念だ」と強調する。前提として健康があり、その上にメンタルや主体性、知識と価値認識が積み上がって結果に至るが、最後に踏ん張る力は精神的な覚悟に依存する部分が大きい。効率化や持続化の工夫は不可欠だが、「やると決めたならやる」という姿勢がなければ始まらない。どうしても難しい場合には、SRE支援など外部サービスを活用するのも現実的な選択肢だと補足した。

 実践を回すうえでの心構えとして、「ログ一行の向こうには一人のユーザーがいる」「まれによくあるタイムアウトは、実は同じバグかもしれない」という言葉も紹介された。データを抽象的な数値として扱うのではなく、人の体験と結びつけて捉えよ、という警句である。加えて、「拙速は巧遅に勝る」を現代的に言い換えた概念として、OODAループにも言及した。

定点観測会はOODAループを高速に回すための実践の場であり、場数・思考・対話・継続というエンジニアの地力を同時に鍛えられる
定点観測会はOODAループを高速に回すための実践の場であり、場数・思考・対話・継続というエンジニアの地力を同時に鍛えられる

 日本企業で定番のPDCAが「計画→実行」を重視するのに対し、OODAは「観察→状況判断→意思決定→行動」を高速に回す枠組みである。馬場氏はこれを「勝率を上げるというより、大負けしづらくするための方法」と位置づけ、定点観測会との相性の良さを強調した。

 定点観測会を軸にしつつも、馬場氏は独学やOFF-JTの重要性も認める。独習において重視すべきなのは、HowではなくWhy/Whatに向き合う姿勢だ。なぜこの構成が定番なのか、なぜ当時は適切で、今はそうでないのかを説明できるようになることで、技術選択の背景が見えてくる。そうした「ホワイトパターン」を過去の経験と照らし合わせることで、当時の意思決定がどの保証要素を重視した結果だったのかが理解でき、対話の材料にもなる。アウトプットも有効だが、必ずしも公開する必要はなく、書いて寝かせ、見返すだけでも十分に効果があると述べた。

 なお、OFF-JTとしての読書会やメンタリングでは、知識の確認にとどまらず、価値認識の違いを持ち寄ることが重要だ。同じ事象でも、背景や立場が違えば評価は変わる。正誤で裁くのではなく、保証要素の観点から当時の判断バランスを振り返ることで、理解は一段と深まるという。あわせて、「初回はAIによる要約を入口にし、書籍と生成AIを併用して議論の時間を厚くする方法も有効だ」と提案した。

 まとめとして馬場氏は、エンジニアの地力を「ユーザー価値の保証要素を、速度と品質をもって実現する力」と改めて定義し、「定点観測会で本を片手に対話を続け、自身の実践につなげてほしい」と結んだ。AI時代であっても、責任を引き受け、説明可能な判断を積み重ねる営みは代替されない。技術力に加えて価値判断を引き受け、社会に対して説明し続ける覚悟こそが、現場と向き合い続けるエンジニアを支える。本セッションからは、その覚悟を日々の実践として積み重ねていこうとする、馬場氏の力強いメッセージが伝わってきた。

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

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丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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https://codezine.jp/article/detail/22892 2026/02/18 10:00

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