アーキテクトとは何者か──事業に貢献する役割の再定義
変化の激しい時代において、エンジニアは自身のキャリアをどのように描くべきか。その問いに対し、具体的なロールモデルを提示する試みが「エンジニアキャリア図鑑」である。本セッションはその第2回として、「事業に貢献するアーキテクト」をテーマに掲げ、実践の最前線に立つ2名が、現在のアーキテクト像について語った。
モデレーターを務めたのは、カケハシでSCM Head of Engineeringを担う小田中育生氏だ。医療系スタートアップという複雑なドメインに身を置き、多様なステークホルダーと向き合うなかで、アーキテクトという役割の曖昧さや難しさに直面してきた人物である。その問題意識こそが、本セッション全体の出発点となった。
登壇者の一人である電通総研の米久保剛氏は、17年以上にわたり大規模SI案件を中心にITアーキテクトを務めてきた実務家だ。現在はプロダクト開発の現場に身を移し、共通基盤からアプリケーションレイヤーまでを横断的にリードしている。もう一人の登壇者は、MonotaROでシニアアーキテクトを務める尾髙敏之氏である。事業会社のIT部門で長くキャリアを積み、業務とシステムの橋渡し役として組織を支えてきた。
セッション前半のテーマは「アーキテクトとは何者か」である。ITスキル標準などで定義されているように、教科書的には、「ビジネス戦略やIT戦略と整合する要求を満たすためにアーキテクチャ方針を定め、実現へ導く役割」とされる。しかし米久保氏は、「実際にはそれよりもはるかに幅広い。現場には多様な形のアーキテクトが存在する」と話す。
かつての大規模ウォーターフォール開発において、アーキテクトは「規律(ディシプリン)」を体現する存在だった。定められたルールを守らせる立場にあり、ときに「開発者から恐れられる存在」でもあったという。一方、現在のアジャイルなプロダクト開発では、その立ち位置は大きく変化している。これについて米久保氏は、「専任の役割というより、必要な場面でアーキテクトの帽子をかぶる存在へと変わり、チームと伴走しながら意思決定を支える役割へ進化した」と説明した。
これに対し、事業会社でシニアアーキテクトを務める尾髙氏は、さらに広い視点から定義を提示する。アーキテクトのスコープはソフトウェアにとどまらない。業務組織や開発組織、組織文化、さらには営業部門との関係性までを含め、「事業をうまく回すための要素を見つけ、それを構造化して実現すること」こそが本質だと述べる。
両者の意見に共通して浮かび上がったキーワードが「構造化」である。ドキュメントの構造、ソフトウェアコンポーネントの構造、組織の構造、ステークホルダーの関係構造。アーキテクトは、あらゆる対象を構造として捉える必要がある。では、その構造化のスキルはいかにして身につくのか。
この問いを投げかけた米久保氏に対し、尾髙氏は自身のマネジメント経験を引き合いに出す。事業目標を部門目標へ、さらに個人目標へと分解していく過程で、自然とツリー構造や人間関係のネットワーク構造が可視化されるという。人の相性や関係性を無視すれば、組織もシステムも歪む。だからこそアーキテクトは、「モノ」だけでなく「人」も設計対象に含めるべきだと説いた。
