作業そのものは生成AIによって高速化できるが、その先がなければ生産性の向上は限定的にとどまる
続いて、トークテーマは「協働のためのマネジメントスキル」へと移った。及部氏は、生成AIの登場によって開発の仕方そのものが変わりつつある今、チームの作り方や進め方を再考すべきだと強調する。チーム編成=人を集めること、と短絡的に考えるのではなく、生成AIを前提にしながら、まずはどのように高速で仕事を回していくのかを設計する必要があるというのだ。
ここで及部氏が示したのは、野中郁次郎氏による「The New New Product Development Game」を起点とするSECIモデルだ。スクラムの思想的背景にもなっているこのモデルは、知識創造を「共同化」「表出化」「結合化」「内面化」という4つのプロセスの循環として捉えている。「言語化できない体験としての暗黙知を共有し、形式知として表出・結合し、再び体験として内面化する。そのサイクルを回し続けることで、チームや組織は知を蓄積してきた」と及部氏は説明する。
さらに及部氏は、生成AIの登場がこのサイクルに与える影響にも言及。暗黙知を形式知に変換する作業、形式知同士を組み合わせて開発に落とし込む結合化のプロセスは、すでに生成AIが強力に支援、あるいは代替できる領域になりつつあるという。
一方で、最後まで人間に残るのは「共同化」、すなわち共通体験を通じて暗黙知を共有するプロセスだと及部氏は強調する。実際に現場を見て、同じものを感じ、同じ課題意識を持つ。その体験がなければ、生成AIがいくら高速に形式知を回しても、意味のあるアウトプットにはつながらないという見方だ。
だからこそ、生成AI時代のチームづくりでは、「『人間が集まって何かをする時間』をどう設計するか」がカギになる。個別に顧客を訪問し、ともに現場を体験して、感じたことを言語化する。その共同化の設計こそが、生成AIのスピードを活かす前提条件になるという。
この話題を受けて広木氏も、知識創造のプロセスに生成AIエージェントが入り込んでいく未来について言及した。これからのシステム開発では、従業員の頭の中にある暗黙的な情報を一種の「ソフトウェア」と捉え、アウトプットしていくことが重要になると指摘する。真に必要な進捗や判断材料は、形式化されていない情報の中にあるからだ。
また広木氏は、SECIモデルにおける「場」の重要性にも触れる。暗黙知は、実践や対話の場で得られる小さな情報の中に潜んでいる。だからこそ、それらを拾い上げ、観点を与えて分析し、インサイトへと変換する営みが欠かせないわけだが、「そうしたプロセスも、今後はAIが支援していくだろう」と展望を述べた。
具体例として広木氏は、日常の会話や1on1、飲み会などでのやり取りをAIエージェントに記録させた結果、「この話は記事化できそうだ」と提案された体験を紹介した。会話の中で生まれる問いや気づきは、その場では見過ごされがちだが、本来は意思決定の材料となる重要な情報である。そうした情報を拾い上げ、次の判断につなげるサイクルが回らなければ、マネジメント上のボトルネックは解消されないという。
広木氏は、「作業そのものは生成AIによって高速化できるが、その先にある仮説立案や実験設計が回らなければ、生産性の向上は限定的にとどまる」と指摘する。仮説を立て、試し、結果を評価して残す。この意思決定のサイクルを回すことで初めて、単なる作業量の増加ではなく、実質的な進捗につながると語った。
宮田氏もこの見方に強い共感を示す。自身が支援するAIトランスフォーメーションの現場では、知識を蓄積し、活用する仕組みづくりがまさに中心的なテーマになっている。ナレッジマネジメントの仕組み自体は生成AIによって高速に構築できるが、それを使って共同化し、意思決定につなげられるかどうかは関わる人次第というわけだ。
形式化された作業を生成AIで高速に回すことは今や大前提である。次なる課題は、いかにしてAIを自分のものとして使いこなしながら、他者と体験を共有し、価値を生む意思決定へと結びつけるか、なのだ。
