※本記事で紹介する発言内容は、2025年7月18日に実施したイベント時点でのものです
内製人材、アクセス管理、開発予算──速やかな課題解決のために選んだ「現実的な解」
GovTech東京のAIイノベーション室に所属する橋本淳一氏は、自治体向けの生成AI活用支援を担当している。民間スタートアップ出身というバックグラウンドを持ち、現在は同財団で東京都庁および都内62区市町村のデジタル化を支える立場にある。
本セッションでは橋本氏から、「行政という現場でプロダクト開発がどのように行われてきたのか」、そして「なぜ生成AIが思うように活用されてこなかったのか」が語られた。
行政におけるソフトウェア開発は、長らく「作る」ものではなく「買う」ものだった。自前でエンジニアを抱え、継続的にプロダクトを育てるのではなく、要件を固めて調達し、ベンダーに委託するスタイルである。この構造自体は合理的だが、技術革新のスピードが加速する現在においては、変化に追いつくために従来よりも速いサイクルで開発が必要になる。
この課題に対し、東京都のデジタル化を担うGovTech東京では、内製開発力の獲得を掲げ、「外注開発+内製開発のハイブリッド型に転換する」というコンセプトを掲げて向き合っている。行政サービスを、より早く、より柔軟に改善していくためだ。しかし一方では、巨大な行政サービスすべてを内製開発で回すことは難しい。人材もリソースも制約がある中で、いかに現実的な解を見いだすか。その過渡期に生まれた取り組みが、「生成AIプラットフォーム」である。
ここで言う生成AIプラットフォームとは、東京都および都内62区市町村の職員が、日々の業務の中で生成AIを活用するためのノーコードアプリを作成できる基盤を指す。この開発においては、すべてを外部調達するのではなく、ソフトウェアにはOSSのエンタープライズ版ライセンスを活用し、その上で動くインフラ部分を社内エンジニアとともに構築した。いわば、内製と調達を組み合わせたまさにハイブリッド型だ。
リソースが限られている中でも、課題解決は日々待ってくれない。そのため、現実的な選択としてこの方式を取っている」と橋本氏は語る。
東京都庁では、2023年頃から生成AIの検証が進められてきた。Azure OpenAIを用いたプロトタイプの構築、ガイドラインやプロンプト集の整備、Copilotの導入など、組織的な取り組みが段階的に進行していた。一方で、基礎自治体である区市町村では活用が思うように進まなかった。
その大きな要因が、行政特有のネットワーク構成、いわゆる「三層分離」である。インターネット接続系、LGWAN、個人番号系が厳格に分かれており、多くの職員はインターネットアクセスが制限された環境で業務を行っている。民間で一般的に使われているSaaSや生成AIサービスをそのまま導入することは難しかった。
自治体ごとの予算や人材の差も大きい。潤沢な予算と専門人材を持つ自治体であれば独自システムを構築できるが、それが全体に横展開されるわけではない。「できるところ」と「できないところ」の差は、構造的に広がり続ける。
もどかしい現実を前に、「この状況を何とかしたい」という問題意識が橋本氏の中で強まっていった。
