コンテキストこそが「暗黙知のオンボーディング」──4種類のコンテキストを使い分けよう
便利なツールを手に入れながらも「なんとなく信用が置けない」「自分で書いた方がちゃんとできる」という感覚を持つ開発者は多い。関本氏はこの問題の本質は「コンテキスト不足」にあるという。その根本には、AI活用に関する2つの誤解がある。
1つ目は「オンボーディングの誤解」だ。AIが期待どおりに動かないとき、多くの人はAIの精度に問題があると考えがちだ。しかし実際には、どんな優秀なエンジニアでも新しいプロジェクトに参加したときにはオンボーディング、つまりプロジェクト固有の暗黙知の習得が必要で、それはAIにとっても同じだ。
2つ目は「プロンプトエンジニアリングの誤解」だ。指示の書き方を磨けばうまくいくという考え方は半分正解だが、プロンプトの書き方自体が属人的なスキルになってしまう問題がある。チームで均質な品質を担保するには、個人のスキルに頼るのではなく共有可能な形でコンテキストを整備することが不可欠だ。
コンテキスト不足が招くリスクは主に3つある。誤った前提を与えるとAIがランダム性を持ちながら間違った方向へ進む「不正確な情報」、必要な情報が足りないとハルシネーション(もっともらしい嘘)が発生する「情報の欠落」、そして不要な情報を詰め込みすぎるとトークンを消費し処理精度が低下する「ノイズ過多」だ。「不要な情報は逆に入れない方がいいと言われています。適切な情報をインプットしてあげてください」と関本氏は強調した。
コンテキストエンジニアリングとは、AIエージェントに与える情報を設計・構造化し、チームで共有・再利用できる形に整備する手法だ。個人の属人的なプロンプト技術をファイルとして明文化し、誰でも同じ品質でエージェントを動かせる環境を整えることを目的とする。その実践として、Gemini CLIとGoogle Antigravityでは4種類の要素を役割に応じて使い分けることが推奨される。
まず「GEMINI.md(System Context)」は、エージェントの人格や基本ルールを定義するファイルだ。「あなたはGoogle Cloudの専門家です」といった役割定義から、プロジェクトで使っている技術スタック、コーディングスタイル、やってはいけないことのリスト(rm -rfを使わないなど)、プロジェクトごとのルールまでを記述する。起動時に常時読み込まれるため、都度指示を繰り返す必要がない。
次に「Agent Skills(SKILL.md)」は、特定のタスクや道具の使い方を記述した「手順書と判断基準のパッケージ」だ。エージェントはユーザーの依頼を見て必要なSkillを自律的に判断し、必要なときだけコンテキストに読み込んで使用後に解放する。「全部書いてしまうと、コンテキストが膨大になってしまったり余分なものも含まれるので、使いたいときに使われるものを書いておきます」と関本氏は説明する。
「Custom Commands(スラッシュコマンド)」はユーザーが明示的にトリガーする決定論的なショートカットだ。プルリクエストの発行や画像生成、コンテキストの圧縮など、LLMの自律判断を介さずに決まった処理を実行させたいときに用いる。
「References(in Skills)」はSkillsと組み合わせて持つ辞書・仕様書の役割を担い、参照が必要なときだけ読み込まれるライブラリだ。大量の業務知識を持ちながらも推論時のコンテキストは常にクリーンに保たれる。
AIを「育てる」フィードバックループ──ミスを恒久的なルールへ
エージェントコーディングの基本フローは「開始→計画→実行→モニタリング」の4段階だ。最も人間が関与すべき重要なフェーズは「計画」にある。エージェントがPRDやドキュメント、リポジトリなどのコンテキストを参照しながら実装計画を立て、Human in the loopのフィードバックを繰り返しながら計画を精緻化する。
実行フェーズが完了したら、Artifactを活用してモニタリングを行う。Antigravityでは計画に対して約90%のフィードバックを反映し、残りの10%で継続的に改善していくサイクルが想定されている。数字は目安ながら、「そういった方向に向かっていくので、今のうちにこのやり方をやっていただくと洗練されてきます」と関本氏は語った。
コンテキストが膨らんでAIがループ状態に陥るのを防ぐ手段として「意図的な圧縮(Compaction)」も有効だ。セッションをリセットして情報を整理し直し、必要な情報だけを次のセッションに引き継ぐことで、役に立たない情報ばかりになる事態を避けられる。
そして最も重要なのが「フィードバックループ」だ。「何かミスをしたら、次から同じミスをしないよう、エージェントの人格を定義するファイル(GEMINI.mdなど)にルールとして書き加えてください」と関本氏は語る。ミスをその場限りにせずルールとして固定することで、AIは同じ間違いを繰り返さない「自分専用のパートナー」へと成長していく。
セッションを締めくくる言葉として関本氏は「コンテキストというのはどのツールを使っても大事です。(コンテキストを考慮せず)バイブコーディング的なこともできますが、この考え方を少しでもお役に立てていただければ幸いです」と語った。
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