ドメイン知識をシステムへ──AIエージェント化への道筋
単に既存の機能にAIを付け加えるのではなく、いかにして「自律型のAIエージェント」へとアプリケーションを進化させるか。ここで岡本氏が鍵として挙げたのが、「ドメイン駆動設計(DDD)」の徹底した活用である。AIを有効に機能させるためには、ビジネス現場に眠る複雑なドメイン知識を、いかに正確にシステムへ落とし込むかが成否を分けるからだ。
DDDというフレームワークを用いることで、ビジネスの境界線を「コンテキスト」として定義し、業務単位でサービスをマイクロサービス化していく。この一見すると地道なエンジニアリングの基本こそが、高い独立性を持つAIエージェントを構築するための道筋となる。また、これらは大規模なリプレイスによる「ビッグバン」方式ではなく、影響範囲の少ない領域から徐々に切り離し、レガシーを「枯らしていく」という、極めて現実的かつ戦略的なアプローチが取られている。既存の巨大なモノリスを尊重しつつも、着実に未来のアーキテクチャへと移行させる。この思考プロセスこそ、多くのエンジニアが直面する「技術的負債への向き合い方」への深い示唆となっている。
スピード感とガバナンスを両立させるためのアーキテクチャ
現場がAIを自由に使おうとした際、最大の障壁となるのがガバナンスのリスクである。一つひとつのプロジェクトで個別にコンプライアンス審査を行えば、それだけで数か月を要し、AI時代のスピード感からは取り残されてしまう。そこで岡本氏らが進めているのが、あらかじめ安全性が保証された「ガードレール付きの環境整備」である。利用先をトラックできるゲートウェイを設け、開発環境を抽象化・標準化することで、エンジニアはリスクを恐れずにスピーディーな検証が可能になる仕組みだ。
投資判断の基準も刷新された。「AIプロダクトマネジメント」を導入し、個別の最適化ではなく、全社的なビジネスインパクトを最大化する領域へ集中投資を行う。さらに、AIの燃料となるデータについては「データメッシュ」の考え方を採用し、データを単なる材料ではなく「プロダクト」として扱う文化を醸成している。高品質なデータを全社横断でオーケストレーションできる基盤を整えること。このインフラ側の整備と、DDDによるアプリケーション側の整備が噛み合って初めて、真のAIネイティブ組織への転換が加速するのである。だが、これらすべての施策を成功させるためには、エンジニア一人ひとりの「マインドセット」の変革が不可欠であった。

