AIの思考プロセスを「覗き見る」ことで、指示のズレを解消する
森松氏が実践の中で磨き上げたテクニックの中でも、特に示唆に富むのが「AIに対する自省とモニタリング」だ。AIが思い通りに動かない場合は、その原因をAI自身に分析させる。「あなたはプロンプトエンジニアリングのスペシャリストです。私のプロンプトを分析してください」と問いかけ、統計や改善提案を出させるのだ。これにより、自分の指示の癖や、AIに伝わりにくい表現を客観的に修正していくことができる。
また、AIの思考過程(Chain of Thought)を覗き見る手法も重要だ。森松氏は、AIの判断理由を、「結論・根拠・判断」の順で構造化してAI自身に説明させる。あるとき、添付ファイルのファイル形式が何かを質問したところ、AIは「プロンプト辞書です」と回答した。判断理由を聞くと、AIは「冒頭1行目の内容から、推定読者がAIであると認識した」と答えた。森松氏は「JSONかYAMLか」という形式を質問したつもりだったが、AIは「用途」を回答していたのだ。この意図のズレに気づけるのは、AIの思考プロセスを監視し、問いを重ねる人間だけである。
さらに、AIを「自律的」に動かすための管理術も現場経験から生まれたという。AIに「タスクを分解すること」「1つずつ確実に実行すること」「完了後に進捗を報告すること」という制約を加える。するとAIが自ら進捗管理しながらタスク消化をしていくようになるが、驚くべきことに「この機能は○○のケースのみを想定して実装した」といったAI自身の判断を、次のタスクのための「引継ぎ事項」として書くようになった。私たちが日常業務で行っている進捗管理の重要性は、AI相手であっても何ら変わらないのである。
磨くべきは「検証力」と「抽象化能力」──「生涯エンジニア」でいるためには?
ここまでの試行錯誤を経て、森松氏はこれからのエンジニアが磨くべき4つのスキルを整理した。
1つ目は、AIとの対話スキルである「プロンプトエンジニアリング」。2つ目は、AIの出力を経験に照らして疑い続ける「アウトプットの検証力」。そして、それらを支える土台として、複雑な要件を構造化する「抽象化・言語化能力」と、AIが学習していない現場の機微を理解する「ドメイン知識の深化」である。
これらはすべて、一朝一夕には身につかない。過去に設計書を書き、泥臭いトラブル対応を行い、顧客と向き合ってきた「経験」がそのまま直結するスキルだ。森松氏は、自らの経験を言語化し、小さくAIで試して検証し、最後は自らが判断と責任を持つという3ステップを提示し、ベテランの再起を促す。同時に、若手エンジニアに対して、ベテランが「なぜこういう考えに至ったか」という思考のプロセスを伝承していくことの重要性も強調した。
セッションの冒頭、娘から投げかけられた「クビじゃない?」という問いに対し、今の森松氏は確信を持って答えられる。「いや、違うよ。AIを使いこなせばどこまでもいける。お父さんには、『なぜ』を問う力がある。だから大丈夫だ」と。
同氏はセッションの最後に「生涯エンジニア宣言」を掲げた。年齢を言い訳にせず、経験を武器に前提を疑い、新たな経験を積み上げる。AIと共により高みへ。その力強い言葉は、すべてのエンジニアを勇気づけるのではないだろうか。
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