SaaSにも開発者がいる——Salesforceの開発とは何か
セールスフォース・ジャパンでSalesforce技術者向けのマーケティング活動を率いる稲葉氏は、Salesforceに馴染みのない開発者に向けてこう切り出した。「今日一番伝えたいのは、Salesforceって『食べていいものだろうか』と思っている人たちに、『食べても大丈夫だよ』ということをお伝えしたい」
Salesforceは「SaaS」に分類されるが、開発者の余地は大きい。なお、今回のセッションはおもにSalesforceの基盤に絞った内容となった。そのアーキテクチャはUI・処理実装・データ/コンテキストの3層で構成される。各層にコーディングとノーコードの両アプローチが用意されており、UIはLWC(Lightning Web Components)、処理実装はApexやAgent Script、データ操作はDML(SOQL・SQL・GraphQL)で扱う。
新言語「Agent Script」でAIエージェントのふるまいを定義
アプリ基盤の説明を受け、デモを担当したのはおだしょー氏だ。題材は、外部のWeather APIを呼び出す処理をApexで実装し、それをLWCとAIエージェントの両方から利用できるようにするもの。構成は3ステップ——外部アクセス処理のApex実装、Lightning Web Componentsへの組み込み、Agentforce Studioへのトピック・アクション追加だ。
VS Codeに専用Extensionをインストールした開発環境でApexクラスを編集しデプロイを実行する。LWCのコードについておだしょー氏は「よく見るとHTMLやJavaScriptなんです。標準のWeb開発の知見があれば普通に使えます」と話した。
続いてAgentforce Studioを開き、Agent Scriptに、天気に関する問い合わせを受け付けるWeather Inquiryトピックと、Weather APIを呼び出すアクションを追加した。Agent Scriptとは、AIエージェントの振る舞いを定義するためにSalesforceが開発した新しい言語だ。どのトピック(話題の分類)にどのアクションを対応させるかを記述すると、VS Code上にその構造がリアルタイムに反映されていく。この新言語は、登壇翌日の2月20日より正式公開された。
デモでは、天気APIの連携前では、「有明(イベント会場周辺)の天気を知りたい」とエージェントに問いかけると「窓の外を見れば分かるでしょう」と、素っ気ない返答をしていた。連携後に同じ質問を投げると、「今日の天気、気温は9度です。ランチに出かけるにはとてもいい天気ですね。どうぞ気をつけて。楽しいランチタイムを過ごしてください」と応じた。おだしょー氏はこの変化を「急に従順になりましたね」と言い添えた。ちなみに、連携前に素っ気なかったのは、そう答えるようにチューニングされていたからであり、Salesforceのエージェントがそういったキャラクター設定になっているわけではないことのフォローも忘れなかった。
デモでは、天気APIの呼び出しという決定論的な処理と、ランチへの言及という自律的な応答を自然に混在させた動きが、Salesforce基盤のエージェントで実現できることを示していた。稲葉氏はこのアーキテクチャについて「世の中一般的なエージェントフレームワークを使って構成し、運用管理する場合のインフラ部分がSalesforceになっていると捉えると、その便利さを感じていただけるのでは」と話した。
お馴染みの技術で開発できる!Salesforce開発の技術スタック
デモを踏まえ、稲葉氏はLWC・Apex・Agent ScriptというSalesforce開発の3技術について、習得のハードルを整理した。
まずLWCはHTML・CSS・JavaScriptで記述する。Vue.js/Reactの経験があれば違和感なく入れる技術スタックだ。次にApexは「ほぼJava」だと稲葉氏は説明し、「私はJavaの経験もあるので、そこまで習得の苦労もありませんでした」と続ける。さらに現在はClaudeやGeminiがコードを書いてくれるため、自分で全部を書く場面そのものが減ったと付け加えた。Agent Scriptは、「強いて言えばYAMLに近い」と稲葉氏は説明する。
開発ツールもVS Codeに専用Extensionを追加するだけだ。専用の統合開発環境を一から覚え直す必要はない。標準的な技術スタックと普段使いのエディタで、Salesforce開発の世界に入ることができる。また、Salesforceは外部システムからのAPIアクセスを受け付けるだけでなく、Apexを通じて外部サービスにアクセスする機能も備える。連携ソリューション開発者として活躍するキャリアパスもあり、その技術的なスキルもSalesforce基盤上で十分に発揮できると稲葉氏は説明した。
「車輪の再発明からの卒業」Salesforce基盤が開発者にもたらす価値
では、そこに足を踏み入れた先に何が待っているのか。稲葉氏が真っ先に挙げたのがAgentforceだ。AIエージェントを実用レベルで動かすには、エージェントエンジンだけでなく、UI・データ基盤・セキュリティ・ログ管理・ビルダーなど多くの要素が必要だ。「UI、データ基盤、RAGの仕組み、そしてそれらを管理するためのビルダーも必要です。監査ログは、エンタープライズで使うのであれば絶対に必要になります。それらをまとめて提供しています」——それがAgentforceだと稲葉氏は説明する。
なかでも稲葉氏が強調したのが、AIエージェント時代のデータセキュリティ問題だ。エージェントを実務で使おうとすると、アクセスするユーザーの権限に応じてデータの見せ方を制御する必要が生じる。Salesforceはこの仕組みを元々の基盤として持っており、生成AIのために新たに作り出したものではない。
こうした基盤をゼロから作らずに済むことが、「車輪の再発明からの卒業」につながる。ユーザー管理・データアクセスコントロール・認証認可・セキュリティ管理・監査ログを一から実装する必要はない。稲葉氏はかつて、アクセスコントロールのマッピング表をJavaで一から実装しようとするプロジェクトに関わった経験を振り返る。「テストやメンテナンス、セキュリティ対応も求められます。考えるだけでも大変です」。車輪の再発明は開発者としての知識の血肉になる面もあると認めつつ、「ぜひAgentforceを選択肢に入れていただきたい」と訴えた。
一方、何でもSalesforceでやるべきという主張ではない。稲葉氏は武器の使い分けを説く。「Salesforceではない技術の方が実現しやすい場合もある」と稲葉氏は認める。ただし逆に言えば、難しくない課題に対して大きなリソースや時間を投じるのはもったいない。業務アプリ×生成AIという領域ではSalesforceが最適な選択肢になりうると整理した。
Salesforce開発者の「生息地」は多様だ。Salesforce自身には、顧客の導入・カスタマイズを直接支援するProfessional Servicesや、顧客の現場に深く入り込むForward Deployed Engineerといった職種がある。顧客企業でSalesforceを自社向けに内製開発するエンジニアも増えている。また、アプリストアのAppExchange/AgentExchangeに製品を出すISVパートナー、Salesforceを基盤として顧客のシステム構築を請け負うSIやコンサルティングのパートナーも活躍の場だ。一度どこかに入ったとしてもその後に別の場所へ移ることも珍しくなく、エコシステム内を行き来しながらキャリアを広げている人も多いと稲葉氏は語った。
最後に稲葉氏は学習環境を紹介した。無料のオンライン学習プラットフォーム「Trailhead」ではゲーム感覚でスキルを習得でき、無料の「Developer Edition」ではAgentforceを含む機能をすぐに試せる。
「Salesforceのエンジニアリングの世界に足を踏み入れてほしい」稲葉氏は会場にそう呼びかけた。その言葉の背景には、開発者の役割に対する確信がある。「課題解決力と、AI・データ・エンジニアリング、これを結びつけたような開発者になる。これが世の中における自分自身の価値を上げる一つにもなるのではないでしょうか」
株式会社セールスフォース・ジャパンからのお知らせ
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