キャリアラダーの採用・育成への使い方
このキャリアラダーが便利なのは、評価の枠組みにとどまらない点だ。粕谷氏は採用での活用例を挙げる。あるチームからEM採用の要望が上がった際、「どんなEMが欲しいか」を4領域のグレード表に「星」を打つ形で表現してもらうことで、求める人物像が具体的になる。「プロジェクトとテクノロジーは強くあってほしいけれど、プロダクトマネジメントについてはそんなにズバ抜けていなくてもいいです」というように、チームの状況に合った採用要件を言語化でき、そのまま求人票に活かせるという。
育成の面でも、このラダーは「EMになったはいいけれど、何を学べばいいか分からない」という問題のヒントになる。粕谷氏は、社内で今年EMになったメンバーが認定スクラムマスター研修を受け、「何を学べばよいかが分かりやすかった」と話していたエピソードを紹介した。EMの学習には、体系だった入り口が求められていることが伝わってくる。
スクラムマスターはEMへの登竜門──学び方が整っている
粕谷氏がEMを目指す人に最初に勧めるのが、スクラムマスターの学習だ。書籍や研修など学習のための体系化がよく整っており、勉強しやすいというのがその理由である。アジャイル開発の実践知を体系的に学べるスクラムマスター研修は、「VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)な時代に適応する」という意味でも、EMに求められる素養と親和性が高い。
粕谷氏が紹介した参考書『SCRUMMASTER THE BOOK』では、スクラムマスターの成熟度を「ScrumMasterWay」として3段階で定義している。「私のチーム」を見るレベル1から、チームと外部との「人間関係」を整えるレベル2、そして「システム全体」として会社全体に影響力を及ぼすレベル3へと続く。
「このレベル3まで行くと、もうスクラムマスターとは呼ばれていない。そのうちの一つが、EMであってもいいと思う」という粕谷氏の見立ては、スクラムマスターとEMが本質的に重なっていることを指摘している。
スクラムマスターという出発点から、EMの4領域の「差分」を埋めていく。「弱めのEM」から「強めのEM」へと成長していくこのやり方について、粕谷氏は「アジャイルはエンジニアリングマネージャーにとっても大きな武器になります」と語った。
EMの個性がバラバラだからこそ、組織として強くなれる
今回のはてなの取り組みから見えてくるのは、「EMが全員同じである必要はない」という考え方である。完璧なEMが一人いれば解決するという発想ではなく、それぞれ強みの違うEMが複数いて、互いの弱点を補い合える体制の方が現実的だし長続きする。
4領域によるキャリアラダーは、EMの個性を見える化する仕組みでもある。誰が何を得意として、誰が何を補っているかが分かるようになることで、採用・育成・配置といった判断を感覚ではなく根拠をもって行えるようになる。得意分野の個性をバランスよく見ながら育成や配置をしていくと、会社全体、あるいはチーム全体でケイパビリティが生まれると粕谷氏は言う。複数のEMがいる開発組織であれば、規模を問わず参考にできる。
「EMとは何か」を言語化し続けることの意味
粕谷氏は講演の最後に「このあたりをもう少し掘り下げたいので、またどこかで発表できればと思います」と語った。EMキャリアラダーの取り組みは、はてなにとってもまだ途中である。
EMという役割が組織ごとに違う以上、万能の答えはない。それでも「自社にとってのEMとは何か」を言葉にして、評価の軸を整理し、学びのロードマップを示していくことは、組織が健全に育っていくために欠かせない作業といえる。EMを目指すエンジニアにとっても、EMを抱えるチームを運営する立場の人にとっても、「4領域の凸凹でキャリアを考える」ことは、明日から使える考え方になるはずだ。
