ハーネスエンジニアリングのカギは「越境できる人材」
ハーネスエンジニアリングを機能させる上で、西平氏がもう1つの核心として挙げるのが、役割を横断する「越境」の考え方だ。2025年末、開発組織のテックバリューに越境を定めた。AIによって開発速度が上がったことで「何を作るか」の重要性が増し、「つくるものを間違えると、目的地に全然たどり着けない。エンジニアもプロダクトマネージャーも、より上流の判断に関われるよう役割を変えていこうという話を組織の中でしました」と西平氏は語る。
西平氏は、「AI時代は越境できる人材のほうが多く必要になる」と話す。ただし、越境のためのスキル習得はAIによって効率化されたが、心理的なハードルを越えることができるかは個人差が残る状況だ。TOKIUMではそもそも自ら進んで越境をする人材が多かったが、近年はプロダクトマネージャーやエンジニアが商談などに同席し、顧客と直接コミュニケーションをとる機会がさらに増えている。加えて、一部のエンジニアが率先して自らサービスを売りに行く動きも出てきた。
エンジニアから人事へ、そして再びエンジニアへと職域を跨いできた坂上氏自身も、この越境を体現してきた1人だ。「エンジニアの開発の世界だけでは見えなかったことがたくさんあります。BtoBでは、営業が売って、カスタマーサクセスが運用に乗せて、初めて事業価値になります。その視点は越境を通して得られたものです」と坂上氏は述べる。
坂上氏が越境を経て得たもの(引用:「Developers Boost 2025」登壇資料)
ハーネスエンジニアリングを実践する上でエンジニアに求められるのは何か。坂上氏は「ビジネスサイドのメンバーが高い精度で理解している顧客の要望を、積極的に取りに行くことが第一に必要です」と指摘する。AIに何を指示すべきかを決めるコンテキストはビジネスの側にあり、そのためにも自ら足を伸ばしていく姿勢が前提になる。
一方で、過去にコードを書いてきた経験は無駄にならない。「AIのアウトプットに対して、その良し悪しを嗅ぎ分けられるかどうかは、開発経験の蓄積によって差が出ます」と坂上氏は話す。技術そのものへの深い知識よりも、危うさを察知するセンスとして経験が機能する。
この越境への親和性は、創業当初からTOKIUMに根付いている。学生創業だったため職能分担を知らない状態でスタートした西平氏は「開発者自身がプロダクトの要件を考え、お客様の情報を吸い上げることは当たり前だと思っていました」と振り返る。
西平氏自身はプロダクトマネジメントやBPO部門を経験し、坂上氏もエンジニアから人事へ、そして再びエンジニアへと職域を跨いできた。採用においても知識量よりも「自分で調べて考えられる」ジェネラリスト寄りの人材を重視してきた結果、越境に対する抵抗が少ない組織文化が醸成されてきた。
いまこの時期にハーネスエンジニアリングに取り組む意義について、坂上氏は「間違いなく今後の開発のスタンダードになる考え方です。そのスタンダードの先頭に、今ほぼすべてのエンジニアが立てる状態にあります」と述べる。
スマートフォンの普及がモバイルアプリ開発という職域を生んだように、今はすべての領域のエンジニアに同じことが起きている最中だ。「AIが当たり前になった世界でのエンジニアのあり方を定義する側に回れる。そこにチャレンジしてほしいし、TOKIUMでできると思っています」と坂上氏は強調した。

「越境に対して心理的ハードルが低い人たちが集まっている開発組織は珍しいと思います。チームメンバーの役割も変えながら、チャレンジしやすい環境だと感じています」と西平氏は言う。コードを書くことへの執着を手放した先に、エンジニアとしての世界が広がる。その可能性を、TOKIUMは実証し続けている。
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