永遠に続くと思われていた、ハッピーエンドに導いてくれる魔法の終わり
それさえ手にしていれば、12時の鐘が鳴り響いても決して消えることのない永続的な価値。多くのソフトウェアエンジニアは、それを技術力やコミュニケーション能力、あるいはガクチカや難関資格、大企業への就職といった形で必死に追い求めてきた。しかし、野溝のみぞう氏はセッションの冒頭から、そのような都合の良い「ガラスの靴」など、この現代社会にはもうどこにも存在しないということに、多くの人が気付き始めていると指摘する。
急速なAIの進化によって、人間の仕事や役割が代替されていく現象を指す「ギュられる」というネットスラングがある。野溝氏は、現代をまさに「大ギュられ時代」と定義し、幸運をただ待つだけでは救われない時代が来たと示唆。「シンデレラに出てくるガラスの靴は存在しませんし、魔法使いや王子様に見いだされるようなこともないでしょう。今日は、自分で自分を幸せにしていく術についてお話できればと思います」と述べる。
時代のプレッシャーと古い呪いに流され続け、キャリアの軸を見失う
自分自身の力で自らを幸せにするにはどうすればいいのか。この問いに対する答えを導き出すため、野溝氏は自身の紆余曲折に満ちたキャリアの変遷を振り返る。同氏は就職氷河期のラスト世代として生き抜いてきたサバイバーである。高校生の頃は同人誌の執筆活動に没頭するいわゆる「オタク」。そして、当時の日本は不景気の真っ只中にあった。大学卒業後の就職率の低下から、社会全体に「大学に行っても就職できない」という風潮が広がっており、野溝氏の両親もその世相から大学進学ではなく手に職をつけることを勧め、野溝氏はデザイン系の専門学校へと進むことになる。これが、環境によって選択を狭められるという、同氏にとっての最初の「呪い」だった。
専門学校を卒業した野溝氏は、WebやDTPのデザイナーとして最初のキャリアをスタートさせる。しかし、次第にプロダクトの表層を飾ることよりも、システムの内部にあるコアな仕組み、つまりプログラミングやインフラといった世界へと惹かれていく。当時は技術的な知見もあまりなく、すぐにエンジニアへと転職することはできなかったが、SIerで営業とエンジニアの架け橋となるプリセールスという職種にたどり着く。このときにセキュリティ商材を扱う機会を得たことが、同氏がセキュリティに関するインプットを始めるきっかけとなった。
プライベートでは1回目の結婚という転機が訪れるが、ここでも野溝氏は、社会の見えないプレッシャーに流されることになる。「妻は夫の転勤についていくべきである」という、自身の中に根付いていた古い価値観に従い、東京を離れ、京都、そして茨城へと移り住むたびに転職を繰り返した。サポート職や多重請負のプログラマーなどの職種を経験しつつ、不足を感じていた学歴を補うために通信制の大学に編入し卒業も果たす。だが、再び夫の転勤の話が持ち上がったとき、野溝氏はそこでようやく「もうついていくのは無理だ」と悟り、1回目の離婚を経験する。
自分の意志ではなく、他者の都合と環境の変化に流され続けた結果、キャリアの軸が見えなくなってしまった野溝氏。しかし、この流され続けた日々の先に、同氏のこれまでの職歴を一本の線でつなぐ、大きな転換点が待ち受けていた。
