2009年10月30日に開催された「FileMaker Conference 2009」でのFileMaker, Inc.の社長ドミニーク・グピール氏の基調講演については、「FileMaker Conference 2009が東京で開催/ワークグループでのITソリューションと表計算脱却が今後のテーマに」として別掲の記事に掲載した。ここではカンファレンスでの他のセッションや展示等について紹介しよう。
FileMaker 10に至る注目機能と新機能を交えたデモを紹介
オープニングセッションでは、ドミニーク・グピール氏に続いて、FileMaker, Inc.のシステムエンジニア・マネージャであるアンドリュー・ルケイツ氏より、「FileMaker 10テクニカルアップデート」というテーマでプレゼンテーションとデモが行われた。FileMaker 10シリーズは2009年1月にリリースされたバージョンであり、Mac OS XおよびWindowsの両方のOSでの稼働を実際にデモを行いながら紹介をした。FileMaker 10の新機能だけでなく、FileMakerそのものの紹介にも時間を割かれたが、FileMakerの歴史とともに発展した様子がわかるような流れであった。
FileMakerの使い勝手の良さを、シンプルなテーブルのデータベースで見せ、MacとWindowsの共有ができることや、集計レポートを簡単に作れることを説明し、さらにはリレーショナルデータベースとしての発展を紹介した。そして、FileMaker 7でリレーショナルデータベースとしての機能やセキュリティ関連の機能に大きなジャンプがあったことを示し、さらにはカスタム関数やXMLをベースにしたプログラマ向けの機能も搭載されるなどさらに発展したことも紹介した。その後、PDF生成やWebビューアとしてHTMLコンテンツを利用できる部品、そしてSQLサーバをデータベースエンジンとして使うESS(External SQL Data Source)の機能などが追加され、FileMaker 10ではツールバーの大幅な変更、データの変更と同時にレポートが更新される機能、スクリプトトリガーなどが紹介された。そして、これらの機能を使った実例として、検索のためのユーザインタフェースを別途用意する方法や、タブ機能を使ってデータの種類に応じてレイアウトのデザインをダイナミックに変更すること、クロス集計をいくつかの手段で実現できることが実際のデモで示された。
特に後半は、単なる機能だけを見せるのではなく、搭載された機能をうまく組み合わせることで、どんなアプリケーションを作成できるのかということを具体的に示しながら、開発者が自分で作っているアプリケーションに応用できるようなポイントとなる設定等を見せるなど、初心者から開発者まで見所のあるプレゼンテーションとデモが行われた。
FileMakerの世界を支えるサードパーティによる展示
会場では並行してFileMakerの開発者向けプログラム「FBA」のメンバー各社、およびファイルメーカー社とアップルジャパンによる展示が「ショーケース」として行われた。FileMaker製品やソリューションを体験できる場が設けられたわけだが、FileMakerに関するさまざまなサービスを提供するサードパーティを紹介するという目的が大きい。FBAとはFileMaker Business Allianceであり、受託開発を主体とするFileMaker関連サービスを提供する各社が会員となっている。そのFBAの一部の企業が展示を行った。メインのプレゼンテーション会場の背後に場所が確保されており、プレゼンテーションの合間に来場者が随時ブースを訪れており、どのブースも説明を聞く人であふれるほどであった。
各社の展示内容は、プラグインやサービスなどの製品と、受託開発を中心にした事例紹介に大別できる。ほとんどの会社は受託開発を行っているが、展示では製品をメインに展示している場合もあった。FileMakerでの開発をどこかの会社に依頼する場合、どこに依頼すればいいのか分からないということが聞かれるが、一般にはFileMaker社のサイトにあるFBAのどこかに依頼することになるだろう。今回のカンファレンスではそうしたFBAの一部の会社と直接話ができる機会にもなった。
展示会場では、ファイルメーカー社もデスクを用意し、来場者からのさまざまな質問などの答えていた。また、アップルジャパンからは、FileMaker のカスタムWebを簡単に構築できる「PHP Site Assistant」を利用したiPhone専用サイトの紹介や、発売されたばかりのMac OS X Serverを標準搭載したMac miniや、Promise社のRAIDの展示も行われた。その他、表のようなFBAの展示が行われた。
会社名 | 展示概要 |
株式会社イエスウィキャン | 交通費精算システムなどの開発ソリューション |
株式会社ウィズダム | ソリューションの紹介 |
有限会社エクスインターナショナル | 同社のサイト「db-pro」の紹介など |
株式会社エミック | FileMakerデータベースのホスティングサービス |
株式会社キー・プランニング | MySQLと連動などの開発事例 |
株式会社寿商会 | 商談管理、顧客管理、営業支援のソリューション「KCSD21」 |
株式会社シータ | 情報発信システム「アイリス」やフォント、バーコードなど |
株式会社ジェネコム | トレーニングのFM-Techや執筆した書籍など |
株式会社ジュッポーワークス | 自社開発のソリューションなど |
株式会社スプラッシュ | ReactorやSuperContainerなどFMGateway.jp扱い商品 |
株式会社日本インフォメーション | B-System備品管理などのソリューション |
株式会社日本ビジネス・サポート | メール共有ソフトのネットワークメーラー |
ネビュラ有限会社 | 同社が販売するプラグイン |
パットシステムソリューションズ有限会社 | 自動車ディーラー向けソリューション「Clear Box」など |
株式会社バルーンヘルプ | 同社が提供するソリューションなど |
有限会社ファクトリー | 同社が販売する画像データベースのためのプラグイン |
株式会社マジェスティック | 「誰簡Web」などの同社のWebソリューション |
株式会社レクレアル | ソリューションの紹介とメールマガジンの案内 |
ユーザグループ | 全国のユーザグループの紹介など |
ユーザ事例と技術情報のトラックでのセッション
FileMaker Conference 2009の午後からは、2か所の会場に分かれてのセッションが行われた。ユーザ自身がFileMakerを使って業務改善を行ったことをレポートする「ソリューショントラック」と、テクニカル情報を提供するための「テクニカルトラック」が並行して実施された。残念ながら筆者1人で両方をレポートすることはできないので、本レポートはテクニカルトラックのみとさせていただく。ソリューショントラックについてはタイトルと講演者のみのご紹介となる点をご了承いただきたい。
1. | 既製の ERP パッケージでは難しかった希望通りの詳細な管理業務が可能に。しかも、開発コストも期間も、大幅に削減。 | 株式会社ジェネコム |
2. | 医療 IT システムは医療現場で作られる! ― J-SUMMITS がつなぐユーザーメードの輪 ― | 名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンター長 CMIO(Chief Medical Information Officer) 吉田 茂 氏 |
3. | お客様と社員、社員同士のコミュニケーションを促進させるため、全社的に横断するワークフローを構築。営業力の強化、食の安全確保、迅速なクレーム対応を実現。 | 日本ピュアフード株式会社 管理グループ経営管理チーム 高橋 徹 氏 |
旧バージョンからの移行の問題に応えるセッション
テクニカルトラックの1つ目のセッションは、株式会社レクレアルの茂田克格氏による「すっきり解決! バージョン6以前からの移行テクニック」と題されたセッションが開催された。2004年にリリースされたFileMaker 7は以前の「バージョン6」とは大きく変わり、そのままの移行が難しい場合が発生していた。そしてそこから5年、現在もバージョン6以前の FileMakerのままで実際に業務を運用している場合も少なくない。ユーザも開発者も、何らかのタイミングでアップデートを検討するが、どんな点に注意が必要なのかということは作り込んだソリューションほど見えにくくなる。結果、放置ということにもなり、5年が経過した今でも「移行の問題」は終わらないのである。
茂田氏は移行をする理由、そしてしない理由を挙げ、移行の難しさを示し、実際にどういう理由で移行した結果動かなくなってしまうのかということを、実例を交えながら解説した。また、動作が違っている点や、バージョン6までにあったToday関数の実例を交えながら、移行の勘所をデモした。そして、最後にポイントとして、フィールド名の整理を旧バージョンで行った上で、まずはファイルの変換のみに単純な移行をして様子を見て、少しずつFileMaker 7以降の仕組みに適合させるのがポイントであることが説明された。また、タイトルとは異なるが、FileMakerのデータベース修復機能についての注意点も説明された。修復はあくまでデータをなんとか復活させるための手段であり、修復したデータベースを使い続けることは新たな崩壊にもつながる危険性があることを知っておく必要があると警告した。
開発者にとって知っておくべきセキュリティの知識
2つの目のトラックは、株式会社スプラッシュ竹内康二氏による「セキュリティ ベストプラクティス」というセッションだ。FileMaker 7以降セキュリティモデルが変更されたが、開発者やあるいは利用現場でそれが十分に浸透して活かされているわけではないことも事実だ。竹内氏のセッションでは、機能を理解するための勘所と、実際のソリューションに適用するためにどのような配慮が必要かということが分かりやすく説明された。
まず、アカウントとアクセス権を分けて考えるという基本的な概念を説明し、アカウントにはディレクトリサービスを利用できる点などを説明した。そして実際にセキュリティを実現するための手法として、GUIを工夫する「表面的なコントロール」とアクセス権設定をしっかりおこなう「いばらの道」の2通りがあることを説明し、それぞれの手法について特徴や方法などが具体的に説明された。また、FileMaker Serverのネットワーク通信は設定を変更しないと暗号化されないことや、Adminという名前は使わない方がいいこと、そしてユーザ名と同じパスワードや1つのアカウントを共有することの危険性などを説明し、セキュリティ的な問題点を具体的に示した。さらに、ユーザのテーブルを持つ場合でのアカウント管理の手法が実例で示された。最後に、「現在は情報を流出させた側も罪が問われる」ことを指摘し、開発者がセキュリティに対する高い意識を持つ必要性を説いた。
基幹データベースとの接続で広がるFileMakerのメリット
3つ目のトラックは、株式会社キー・プランニング木下雄一朗氏「基幹系データベースとの連携による FileMaker の新しい活用方法」として、FileMaker 9より搭載されたESS(External SQL Data Source)の機能の解説だ。この機能をまず「RDB(リレーショナルデータベース)などの外部のデータソースを“FileMaker上のデータのように”扱う機能」と説明し、機能を使用するための手順をデモとともに示した。そして、FileMakerの中で、MySQLのデータベースをレイアウトや一覧表示、そして集計等ができることが示された。FileMakerには柔軟性、即時性、使い勝手の良さといったメリットがある一方、RDBではミッションクリティカル、スケーラブル、汎用性といった利点がある。木下氏はESSによりこの両社のメリットをどちらも使えることになる点が強調した。そして、集計処理などがデモされた。
このセッションの内容はFileMaker社からのものも含めてあまり多くの情報がないのが現状であり、実際にソリューション構築をした経験からのさまざまなノウハウが紹介された点ではタイムリーなセッションである。ODBCのDNSは「システムDNS」でなければならないことや、Mac版は Actual Technologyのドライバを使わないといけないといった基本的な情報に加え、実際のアクセスでのキーフィールドの扱いも詳細に紹介された。 FileMaker側でRDBのテーブルを扱う時、キーフィールドの指定が必要になる。検索等を行うと、該当するレコードのキーフィールドの値をまず取り出し、そしてデータを全部取り込むことが説明された。つまり、集計や並べ替え自体はFileMaker側で行っており、ここで大量のデータのやり取りがあると時間がかかることが実際にデモとして示された。集計はRDB側にビューを定義することで高速にできるもののの、RDB側の管理権限が必要でありSQL の知識が必要であることも解説された。また、索引をRDB側にしっかり作っておくことや、多対多のリレーションが機能しないこと、使えない関数があること、更新のタイムラグやロックの動作が違うことなども注意点として示された。こうした注意点に気をつけていれば、FileMakerとRDBの両方のメリットを享受できるESSを利用したシステムに大きな可能性があることを印象づけたセッションであった。
日本にはなかった「メインイベント」の皮切りになったか?
オープニングセッションでFileMakerの方向性が示され、ソリューショントラックやテクニカルトラックのセッションで、現場に近い具体的な情報が提供されることになり、FileMakerのユーザを取り巻く状況が1日にパッケージされたイベントになったと言えるだろう。「クロージングセッション」として最後に懇親会が開催され、ドミニーク・グピール社長を始めFileMaker社のスタッフとユーザや開発者たちが交流を深めることができた。米国では毎年「FileMaker Developer Conference」が開催されている一方で日本ではマイルストーンとなるイベントが今まではなかった。これを機会に、FileMakerの浸透とユーザや開発者の交流促進も含めて、定例化することが期待される。