「アイディアの種」を実現するための3要素と組織としての力
しかし、砂金氏は決して思いつきで「コミケ参加」を始めたわけではない。まずコミケ出展の目的や効果について「他ベンダーが参加していない中で、ユーザーにリーチを図る」「日本の優れたコンテンツを世界に発信する」というようにコンセプトをまとめる。その上で、ちょうど同時期に検討されていたコミケ出展サークルを一覧できる分厚いカタログをWeb化するプロジェクトをWindows Azureで実現する提案を進め、大型案件として戦略的に参画した。
「コミケ出展に必要な大義面分と予算を揃えるためには、実ビジネスでの目に見える成果が必要だった」と砂金氏は語る。そして重要顧客との関係を強化するために「コミケ出展」が必要であるロジックをつくり、最終的に社内の賛同を得たというわけだ。
アイディアの種を新しいチャレンジにつなげるためには、人の確保や予算調達、コンプライアンスが不可欠となる。コミケ出展では、まず社内からボランティアスタッフが自然に集まり、予算の調達も社内で集めてまわり、コンプライアンスも通した。
また、砂金氏は「大企業であることを利用しない手はない」と語る。自由にやろうとすると、どうしても小さく自分たちのチームだけで行おうとしがち。しかし、砂金氏はAzureチームだけでなく、社内の他のチームと連携し、はてはパートナーやお客様といったネットワークも活用してプロジェクトに取り組むことが大切だという。砂金氏は「大企業だから仕方がない、と考えるのではなく、大企業という強みを活かせると考えれば、その醍醐味が分かる。ぜひ、大企業にいる『幸せ感』を認識して取り組んでほしい」と結んだ。
適用範囲が広がりつづける「Windows Azure」
続いて砂金氏は、Windows Azureについて全体図を示しながら紹介。以前から、Azureといえば高度なPaaS環境というのが定番だったが、現在は仮想マシンやモバイル、メディアサービスなどもあり、充実してきている。実際、ソーシャルゲームなどを対象にしたクラウドサービスとして、2011年のアワードで最優秀賞を受賞するなど、クリエイティブの開発の現場での評価されていることが強調された。
またWindows Serverだけでなく、CentOSやUbuntuを数クリックで起動可能な仮想マシンや、Jenkinsなどの環境をプリセットしたイメージライブラリVM Depotのデモを行った。また、大量の動画をクラウドのコンピューティングパワーを活かして同時並行的にエンコーディングしつつ、iOSやWeb向けなどさまざまなデバイスにあわせた形式での配信までカバーする「メディアサービス」も紹介した。なお、モバイルサービスではWindows 8はもちろんのこと、iOS向けのデータ保存やバリデーション、認証、プッシュ通知などを手軽に行うXcode用のスケルトンを簡単に作成することができ、iPhoneアプリをも簡便に作成することができる。講演時にまもなくといっていたAndroid対応も現時点では展開されている。
ユニークな「電話連携」の仕組みと「Twilio」
そしてスマートフォンアプリの開発において、ユニークな「電話連携」の仕組みについて紹介された。当該の「Twilio」は、Webと電話をつなぐAPIであり、日本でもまもなくサービスが開始される。米国ではWindows Azureとの協業も進んでおり、連携事例を多数持つという。砂金氏から場を引き継いだKDDIウェブコミュニケーションズの小出氏が、電話回線接続の「Twilio Voice」、VoIP接続の「Twilio Client」の機能について説明し、デモを行った。
「匿名通話」では、電話をかけるとアプリを経由して、電話へと接続する。アプリのボタンでさまざまな反応を呼び出すことも可能だ。その際、相手側のスマホには電話番号は表示されない。また「VoIP通話」のデモでは、アプリから電話回線へとつながる様子が示された。続いて、クラウディアさんに電話をかけ、画面に表示された番号を押すとそれぞれの反応が得られるデモも行われた。
小出氏は「こうしたWebと電話回線をつなぐ方法は、これまではとても大変な作業だった。それがほんの少しプログラムを書くだけで簡単にできる」と簡便さをアピール。「電話とWebがつながるという発想はこれまであまりなかった。特に開発者が嫌う傾向にあった。しかし、一般ユーザーにとって電話はまだまだ重要なツール。それとWebを連携することで、新しい価値が生まれる」と力説した。
こうした連携を小出氏は「スマートコミュニケーション」と呼び、それが実現できれば「面白い世界がやってくる」と断言する。その例として、サーバが停まると電話が来る、ファミリーレストランの順番で電話が来るといった利用法を紹介。他、さまざまな活用法があるだろう。
具体的にすでに使われている例として、小出氏はUBER社のタクシー配車サービスを紹介。近くに来た時に電話がかかってくるという仕組みだ。また、民宿に電話番号を知らせずに連絡をとって予約をできるサービスもあるという。
小出氏は「まだ電話とWebの連携が少ない今だからこそ、アイディア次第で可能性はいくらでも広がる。組織にとらわれない仕事をするチャンスでもある」と強調する。そして、ハッカソンイベントとして、優勝者にはKDDIウェブコミュニケーションズ社からのビジネス化支援と賞金が提供されるアワードの紹介も行われた。
最後に砂金氏が再び引き取り、Windows Azureを誰でも無料で使える3か月間の無料評価版やハンズオントレーニングなどの情報が提供された後、身につけたスキルを実際に活用できるスマホアプリ開発コンペも紹介された。「皆さんは技術と仲間と、環境とを持ったラッキーな方々と認識してほしい。ぜひ、次のアクションへとつなげるためにも、こうした機会を利用してほしい」と訴えて、セッションを終えた。
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