(編注:編集部都合で掲載が遅くなってしまいましたが、デブサミ2013の特別企画として実施された「公募レポーター」の記事を掲載させていただきます)
1. 自社での経験
昨今、SIは必要悪だ、SIは終わった、SIは保険でしかないと言われるが、本当にSIの未来は暗いのか。確かにAWSなどのクラウドの利用が進むと、ハードがいらない、ソフトウェアもいらない、ユーザー企業は自前でシステムを構築可能。だからSIはいらないという流れが、一見進むように思えるが、本当にそうなのだろうか。この点について大石氏は、自社での例を挙げて説明した。
大石氏が代表取締役を務めるサーバーワークスでは、設立当初、今後はユーザー企業が自前でクラウドをコントロールしようとするのではないかと考えた。そこで、AWSの管理ツールがビジネスになると予想し、CloudWorksと呼ばれる日本語のAWSコントロールパネルを開発、販売をしたが、ビジネス上の結果は大赤字だった。CloudWorksには無料版と有料版があり、無料版のダウンロードはかなりあったのだが、そこから有料版を使おうとするユーザーがいなかったのである。
このビジネスモデルには、2つ問題点があったという。
1. タイミング
当時はまだAWSのようなクラウドを利用するユーザーは、本当に一部の限られたユーザーだけであり、エンジニアが評価のために使うケースがほとんどだった。
2. 仮説の間違い
ユーザーが、セルフサービスポータルを使用しシステムを構築したいと思っている、という仮説をもとに、AWS管理ツールをビジネスにしようとした。しかし実際には、ユーザーはセルフサービスポータルを使用し、すべてのシステムを構築したいと思っているわけではなかった。ただし、自動化、迅速性といったクラウドのメリットを生かし、システムを構築してほしいと思っているユーザーが多いのではないだろうかと考えたという。
そんな中に発生した東日本大震災での経験が、サーバーワークスのビジネスモデルを大きく変えることになる。
AWSでの経験が豊富なサーバーワークスは、震災時にアクセス過多でダウンした日本赤十字のサイトの復旧をたった数時間で行い、さらにCDNなどを利用して、多数のアクセスにも耐えられるシステムをわずか2日で構築した。その実績を買われ依頼された義捐金システムの構築も2日で稼働開始できたという。
サーバーワークスがここから学んだことは、ユーザーは保険としてこういったセルフサービスを利用できるようにしたいと考えているが、システム構築すべてをユーザーが行いたいと思っているわけではない。次世代のシステム構築について、クラウドを利用しつつベストな構成を提案してくれるSIをユーザーは求めているということである。
そこで、サーバーワークスは、震災後、AWSの導入支援(SI)で収益化を図ることになる。
2. クラウドをやって分かったこと
次に大石氏は、サーバーワークスがクラウドを利用したSIビジネスをはじめたことで、分かったことを3つに分けて解説した。
調達モデルの変化
クラウド上でサーバー、ネットワーク、ストレージなどのリソースを迅速に制限なく調達でき、さらにソフトウェアもクラウド上で調達できるようになると、ユーザーが自分でセルフサービスポータルを通じてシステムを構築でき、SIerはいらないと思われるかもしれない。これに対して、大石氏は「SIerに求められるモノが変わってくる」と説明した。
確かに今までのように、階層構造で下請け企業の役割は技術でなく人材バッファであり、さまざまなSIerとコミュニケーションするためのスキルが重要というモデルは崩壊していくであろう。
クラウド上にシステムを構築するのは、クラウド上のサービス(部品)を使用してシステムを構築する新しいタイプのSIerであるという。このような、新しいタイプのSIerに求められるのは、さまざまなサービスを組み合わせて必要なものをユーザーに提供するスキルである。
例えば、お客さんの「のどが渇いた」という要望を満たすために、今までのSIであれば、チームを編成し、下請け企業がそれぞれの役割を果たし、それぞれどの会社の人か分からないので、ドキュメントでコミュニケーションしていく。しかしこれからのSIは、アマゾン工場のような所から、元素(部品)をつなげることによって、水を作りお客さんの要望を叶える、といった具合だ。