スモールスタートでリリース。でも失敗だった!?
2013年にリリースしたスモールビジネス向けのクラウド会計ソフト「会計フリー」は、現在80万社以上に利用され、500名規模以上の上場企業でも活用できるクラウドERPへと進化を続けている。freeeの共同創設者でありCTOを務める横路氏は、プロダクトの進化、組織の成長と共に歩んできた一人だ。
「スモールビジネスは大企業と比べて、カネ、ヒト、モノ、情報の格差に加え、信頼、信用の格差もある。そのため、大企業のように思い切ったことがやりづらい側面もあります。しかも彼らはビジネスがしたいのに、事務作業で本来の業務が圧迫され、やりたいことに集中できていないケースが非常に多い。そのボトルネックをテクノロジーで解消することで、小さいビジネスが活躍できる、かっこいい世の中にしたいと思ったのです」
そこで、まずはビジネスの根幹である会計ソフトを開発することに至った。創業は2012年7月。翌年の2013年3月には会計フリーをスモールスタートでリリースした。
「既存の会計ソフトをそのまま模したモノではなくて、今までにない本当に業務に必要なモノを作りたいと思いました。しかし自分たちの考えたプロダクトが市場に受け入れられるかはわかりません。そこで、その検証をなるべく早く行うために、スモールスタートでリリースしました。ですが失敗もありました」
freeeは個人事業主を含むスモールビジネス向けのプロダクト。にもかかわらず、リリース時期が確定申告の翌週にずれ込んでしまった。「もっとスモールにしてリリース時期を早めるべきでした」と横路氏は振り返る。
エンジニア自身がユーザーの課題を感じ、価値あるモノを作っていく
現在のfreeeは、500名規模の大企業でも使えるプロダクトに成長した。大きなソフトウェアになっても、「開発のこだわりは創業時から変わっていません」と横路氏は語る。
「エンジニアは仕様を渡されて作るだけではなく、自らお客さまの課題を感じ、お客さまの価値になると信じるモノを作る。これは創業時からの理念で、踏襲し続けることを心掛けています」
しかし、活用するお客さまの規模が多様化したことで苦労している点もある。それは「どの規模のお客さまにとっても価値のあるモノを、どうやって作っていくか」ということだ。なぜなら、お客さまに本当に価値が届いているかどうかは検証することが難しいからだ。
「中にはせっかく開発したのに使われない機能だったり、意図通りに使われていない機能があったりしました」
そこでお客さまの満足度が測れるNPS(Net Promoter Score)という顧客ロイヤルティを数値化する指標を導入。オンライン上でフィードバックをもらい、点数が低いお客さまには、社員が電話をかけてヒアリングする(社長自らかけることもある)といった、一見すると泥臭いこともやっている。
お客さまにとって本当に価値あるモノを届けるための取り組みはそれだけではない。「お客さまがfreeeをどう使っているのか、そのログをしっかり分析するための技術基盤を今整備している」と横路氏は力強く語る。データでお客さまのことを理解し、その結果をプロダクトに生かしていくためだ。
このデータ分析基盤の整備を担当しているのは「巨匠」と呼ばれるエンジニアだ。巨匠とはfreee独自のキャリア制度で、現在の巨匠は4代目。特定の分野の技術に自信のある人が立候補し、エンジニア全員による投票で選出される。巨匠は1カ月間通常業務から離れ、何が会社にとって最もインパクトがあるか考えた上で、そのテーマに没頭して取り組むことができる。現在、データ分析基盤はその巨匠が、Digdag(データフローエンジン)やAmazon Athena(クエリサービス)、Apache Spark(分散データ分析エンジン)などを駆使して整備を行っている。