情シスの役割はコミュニケーションの効果を最大化すること
「情シス部門」と聞いた時、そこに携わる人についてどのようなイメージを持つだろうか。「販売されている業務システムを導入する購買・調達的な仕事」「運用するばかりで新しい技術を取り入れず、保守的」「PCのサポートなどをしてくれるが、バックヤード部門として売上を上げないコストセンター」など……世の中の印象はネガティブなものが少なくない。
2013年の入社時にヤフーの情シス部門に配属され、企画・開発・運用に携わってきた伊藤康太氏も、以前はそうしたイメージを持ち、転職まで考えたという。しかし、その後5年にわたってヤフーの社内システムの内製に取り組むうち、ビジネスに重要な「コミュニケーションの効果を最大化する仕事」という役割の面白さがわかってきたと話す。
伊藤氏いわく、情シス部門の最も重要な仕事は「コミュニケーションの効果を最大化すること」。システムを入れることで、コミュニケーションコストを小さくし、本質的な業務に集中してもらえるというわけだ。
とはいえ、システムを導入するだけなら、わざわざ内製する必要はないとの声もあるだろう。しかし、伊藤氏は「組織ごとに最適なコミュニケーションは異なる。それに対する最適なシステムを提供するには、事業を知り、業務を知り、人を知る内部の人間、すなわち情シス部門が企画し開発するほうが効率的とヤフーでは考えられてきた」と語る。
ヤフーは6000名を超える社員の半数近く、約3000名がエンジニアやデザイナーといったクリエイターだ。うち、社内システムのクリエイターともいえる情シス部門は、企画から開発、運用、改善まで、全行程を担う。さらにユーザーインタビューやユーザーテストも行い、ヤフーが一般に公開しているWebサービスと同等のチェックを行う。
こうしたシステムの内製は今に始まったことではない。初期の社内システムでも、サーバ調達やラッキング、OSやプログラムのインストールまで全て社内で行っていた。その後2010年頃から仮想化の波に対応し、伊藤氏が入社した2013年にはOpenStackを導入した。
開発も、Perlが主流だった2005年頃はフレームワークも少なく、愚直に自分たちで作ることが一般的だった。2008年頃からはPHPが主流のWebサービスが増えていくのに従い、社内システムでも独自フレームワークやZendPHP、FuelPHPなどを活用するようになった。そして2013年、既存システムではPHPが引き続き使用されているものの、新規開発はJavaやNode.jpが増え、AngularJSの登場以降はSPAの開発が増えた。その他、TDDやScrumなど「新しめ」の開発手法も積極的に活用されている。
こうした流れは、ヤフーのWebサービス開発とほぼ足並みをそろえるが、社内システムならではの特徴として、伊藤氏は「アカウントや会計、承認など、他システムとの連携が不可欠であること」を挙げる。かつてはファイルやデータベースの直接接続などで連携させていたが、最近はREST APIによる連携に移りつつある。
「必要なものは自分たちで作る」文化のもと生まれた、多種多様な社内システム
では、ヤフーの社内システムは具体的にどういったものなのか。現在稼働中のものだけで1200以上、累計で3500以上、登録されていないものを含めるとさらに多いという。アクティブなアカウントは、グループ会社なども含めると12000以上、累計で32000にも上り、現在も右肩上がりの状況だ。ほぼ全ての社内システムは同一アカウントでのシングルサインオンが可能で、社員・部署などのマスターデータはAPIによって全てのシステムで参照することができる。つまり、省コストで社内システムを作ることができ、使える状況にあるというわけだ。
そうした環境下で開発・活用されている、さまざまなヤフーの社内システムが紹介された。
社内ポータル「WORK」
記事の投稿や検索ができ、誰もが朝出社するとまず開くという、まさに「ヤフーの中のヤフー」ともいうべきシステム。約5000人が毎日利用し、1日約10万PVものアクセス、約1万回の検索が走る。承認フローやフォームが作成できる承認管理システム「WorkflowPlatform」とも連携しており、対応待ちの確認などが表示されるようになっている。
「PC管理システム」
社員への貸与機器の多い同社では、機器の管理も情シス部門の重要な仕事だ。それを支えるのが「PC管理システム」であり、WindowsPC7000台、Mac1万台、iPhone7000台といった大量の端末管理を行う。毎年3000台を入れ替えるような状況でも、スムーズかつ確実な管理を実現。さらにIPなどの管理情報を用いて、設定ファイルの自動生成を行うシステムも用意されている。そのため、PCを設定すれば1時間程度で社内のLANに自動で接続できるようになり、新しい機器を受け取ればすぐに業務がスタートできる。
空調管理システム「Air-con」
ブラウザから空調の操作ができるシステム。エリアごとに温度変更が可能で、営業時間でも空調予約ができる。紀尾井町のビルを建てる段階から空調システムのベンダーと調整しながら開発した。
社内位置情報検索システム「Pozzy」
社内Wi-FiにつながっているPCとスマートフォンから、誰がどこにいるのか検索できるシステム。ヤフーのオフィスはフリーアドレスのため、フロアの混雑度を表示したり、座席やロッカーなどを管理したりすることで、快適な仕事空間作りに寄与している。
社内SNS「MYM」
Slackに似たシステムで、社内で一番使われているという。2011年の社内ハッカソンで誕生し、現在は社長をはじめとする経営陣も利用。常時接続数は15000以上、総メッセージ数は2億以上、チャンネル数は11万以上、Botの数は1万以上と、大きなシステムに成長した。ソースは社内に公開しており、バグや拡張機能などはGitHub Enterpriseでプルリクエストされ、問題がなければ即時リリースされる。
他にも会計システムや人事システム、予定調整ツールなどさまざまなシステムを自前で作っている。いわば「必要なら作ってしまう文化」というわけだ。