「提案型の自社開発」を軸に、複数事業体へと着実に変革
創業39年目を迎えるジャストシステムでは、「役に立つものを創りたい」という思いのもと、「提案型の自社サービス開発」を変わらぬ事業テーマとして掲げてきた。前年度は売り上げ203億円・営業利益55億円を超え、直近の6年連続で営業最高益を更新し続けている。
その原動力となっているのが、全社員の過半数を占める180名超の技術系社員だ。複数のチームに分かれ、いくつものプラットフォームやWebサービスなどを提供しており、対応する技術要素は多岐にわたる。
「専業ベンチャーでもなく、大規模な総合サービス企業でもない。その間のほどよい事業規模で、堅実な安定成長と新規のチャレンジをバランスよく行えている。その結果、業績だけでなく生産性も着実に向上しています」
そう三木氏が評するとおり、5年前と比較した業績は、売り上げで45%、営業利益で92%増えている一方で、平均年収は15%増え、平均残業時間は23%も減っている。
こうしたバランスの取れた複数事業体へと変革を進めてきた背景には、かつて一太郎とATOKで大成功を収めながらも、苦戦を強いられてきた経験がある。専業メーカーで経営を安定させる難しさに直面し、経営陣が悩み導き出した答えが「複数事業体への変革」だったというわけだ。
「特定のビジネスで浮き沈みするのを避け、安心して事業に取り組みたい思いが強くありました。そこで、時代に合わせて事業構造を変化させながら、成長を継続できる堅実な経営モデルを作り出そうとしたのです」
ジャストシステムで特徴的なのは、個人と法人の売り上げ構成が半分ずつだということ。また、ビジネス分野も一般個人向け、EC、学校・家庭における教育、民間企業、公共、医療と幅広い。
しかし事業領域を広げるといっても、実際にそれぞれ利益を出し、継続させるとなると難しい。その鍵は、あくまで事業ごとに市場や顧客を深く理解し、「役に立つものをつくる」ことだという。適切な価値を提供できるか、その課題に真正面から取り組まなければならなかった。
事業部制による“製販一体”で活動を最適化、課題は開発チームの縦割り
そこで、ジャストシステムが組織構造によって導入したのが「事業部制」だ。よく聞く組織構造の一種ではあるが、この事業部制の成否は「本当に魂を入れてやり切れるかがポイントになる」と三木氏は語る。事業部制では“製販一体”でサービスの企画から訴求方法、提供価値、価格、販売方法、スケジュールなどを議論し、自分たちで決めていく。それを徹底して行うことが、事業を立ち上げる上で最も重要というわけだ。
このデメリットとしては、事業部内に複数サービスを持つことで開発チームが分化し、“縦割り”のチームとなる可能性がある。これは自動車産業など製造業などにもよく見受けられる問題だが、ジャストシステムでも事業部制の推進によって業績を上げようとした結果、同様の問題が浮上したという。
「事業部制はビジネスユニットなので、事業部長を中心に『いかに売り上げを上げるか』といった議論が中心になります。開発チームも縦割りという限られた中で、多種多様な技術的課題を解決する必要が出てきました。事業部制に魂を入れてまい進すればするほど、技術的な課題が増える。そこで技術的解決力を高めるための“別の工夫”が必要だと考えるようになったのです」
その危機感を持ったのが2015年。各部署から技術力の高い中堅から若手のメンバーが集まって議論したところ、さまざまな課題が出てきた中で、「部署横断でもっと情報共有をしたい」との声が最も多かったという。そこで、自分たちで選定し、全社情報共有基盤として 「Qiita:Team」を導入することとなる。それまではRedmineやSlackなどをチーム個別に利用していたが、セキュリティの観点などからも見直しを図り、イントラネット内での情報共有をまずは優先したという。
すると、事業部間での情報共有のプラットフォームには投稿数が7倍になるなど、部署横断での情報共有が進み、事業部や開発メンバーのみならず、情報システムや品質管理などの部門、デザイナーや教材・辞書チームなどのメンバーも参加するようになっていった。そして、お互いの業務内容や成功体験、ノウハウといったプラス面の共有だけでなく 悩みやしくじりなど、抱えている問題なども表面化するようになったという。
「事業・サービス・売り上げという事業軸だけでなく、技術軸での課題や対処法なども情報共有が可能になりました。そして、状況が可視化するほど、対症療法的な課題解決にとどまらず、抜本的な問題と解決法を議論することの重要性を深く認識するようになったのです。こうした議論はマネージャー間でできるものではなく、やはり現場のエース級の当事者同士でなければできません。その思いが『技術内閣制度』立ち上げへのモチベーションとなっていきました」