シアトルで視察したスマートシステムに触発されて
当該のプロジェクトに取り組んだチームのメンバーは、いずれも2018年4月にAWS Japanに入社したという新人ながらも全員が大学院卒で、5人中3人は博士号持ち。年齢差もあり、経歴も趣味も違いながら、ともにAWSのサービスを学ぶ教育プログラム「Tech-U」の研修を受けるうち、1カ月も過ぎる頃には「新しいことに取り組みたくなった」という。そんな折、針原氏は「Tech-U」のディスカッションを目的としたシアトル出張に出掛け、「Amazon Go」を始めとする最新の活用事例に触れる経験をすることになる。
「Amazon Go」はいわゆる「レジに人がいないコンビニ」だ。車の自動運転で活用されているコンピュータ・ビジョンやディープラーニング、センサー技術などが用いられており、アプリが入ったスマホを持っていれば、商品棚から商品を取るだけで、簡単かつスムーズに商品を購入することができる。「さまざまな技術が背景にあることは理解していたが、実際にユーザーとして店に入って買い物をしてみて、その便利さに驚いた」と針原氏は初めての「Amazon Go体験」の印象を語る。
また日本未発売の「AWS DeepLens」にも触れた。撮った動画を用いて、ローカルで深層学習モデルを実行するなどの分析や処理を行えることに興味を持ったという。そうした最新の事例に刺激を受け、研修のまとめとして「新しくて面白そうなことをしたい」といった気持ちが強まっていった。
針原氏はシアトルから戻り、改めてプロジェクトのヒントを探して周りを見渡すと、ちょうどオフィス移転の時期で、移転先では既に完全フリーアドレス制が導入されていた。自由で利点も多いながら、ちょっと相談したいと思っても、誰がどこにいるのかわからない。そんな不具合を改善するべく、新人チーム5人で開発したのが「Simple Location Finder」だった。社内に設置したカメラで画像を撮り、誰がどこにいるのかを自動認識して情報を共有することで、探している人がだいたいどのエリアにいるのか、”あたり”を付けられるようになるというアイデアだ。
システム構成としては「デバイス」「認識」「データ」「フロントエンド」の4つのマイクロサービスからなっている。
オフィスの複数のドア横に設置したRaspberry Piで、人が通ったら画像を撮影しAmazon S3上にアップ。それをトリガーとしてAWS Lambda関数が走り、画像分析APIサービスAmazon RekognitionとデータベースAmazon DynamoDBを呼び出して写真と対応する人の名前を取得し、Amazon API Gateway経由でAmazon DynamoDBにデータ保存、時間や場所を記録する。
検索する際のフロントエンドの動きとしては、S3の静的ホスティング機能でVue.jsで書かれたコードを置いておいて、検索画面に名前を入力すると、裏でAmazon Cognitoによる認証とAmazon API Gatewayが呼び出されて「いつどこにいたか」が表示されるという仕組みだ。
社内でテストユーザーを探しサービスを提供したところ、「気に入った」「(顔の写真を撮られることについて)抵抗感は問題ない」「人に勧めたい」のすべてで高評価を得ることができたというが、実運用には至らなかった。