LINEはなぜプライベートクラウドを採用するのか
続いて、データプラットフォームとインフラについての取り組みを、Verda室 室長の三枝慶寛氏が紹介した。「Verda」とはLINEが運用するプライベートクラウドの名称だ。
まずはデータプラットフォームについて。LINEでは、より効率的にデータを活用できるよう、セルフサービスで利用できるデータプラットフォームを目指している。プロダクトマネージャーであればABテストの結果、インフラエンジニアは障害につながるデータを知りたいなど、さまざまな立場の人が自分の欲しいデータをすぐ取得できる環境ということだ。
LINEのデータプラットフォームは、毎日1兆件以上の新しいレコードが生成される膨大な規模だが、解決したい課題がみっつあった。
まずはアクセシビリティ。朴氏も言及したようにデータのサイロ化が一番課題だった。LINEではかつてサービスごとに複数のデータプラットフォームが運用されていて、サービスを横断して分析することが困難だった。この課題の解決のためにプラットフォームの統合が必要だった。
しかし、ひとつの環境でさまざまな分析環境を提供するというマルチテナンシーをどう実現するかといった新たな課題も生まれてくる。これが課題のふたつめだ。
みっつめの課題はデータのクオリティ。一般に、データサイエンティストの業務の80%はデータの整備に時間がかかっていると言われ、LINEでも同様の課題があった。いかにして、データサイエンスのチームにユーザーの価値につながることに集中してもらえるか、そのためにデータの質を良くしたいという課題だった。
データの統合については、システムを止めずにオンラインでプラットフォームを統合したという。同日の別のセッションでその詳細が語られた。
マルチテナンシーの課題については、各分析環境をどのように独立し、オンデマンドで提供するのか、2000名を超える分析ニーズに対してどうスケールさせるのか、といった観点で取り組みが進められた。
最後のデータの品質については、データのバリデーションと、その結果をメタデータに保存する、その1年分の流れを自動化するというアプローチを取った。データの量・種類が多く、一筋縄ではいかなかったとのことだ。
これによりデータサイエンスのチームは、より効率的に、横断的に分析を進めることができるようになった。プラットフォームの統合により、データガバナンスも実現したのだという。
次に、LINEサービスを支えるインフラについて紹介された。LINEは「Fast Lifecycle Infrastructure」、つまり、いかにインフラのライフサイクルをスピーディーにするかを目標に掲げている。LINEのインフラは1Tbpsを超えるネットワークトラフィックがあり、グローバルな規模のネットワークで構成されている。4万台のサーバーが運用され、サーバーを積み上げると2200m(スカイツリーのおよそ3.5本分)の高さになる。
2200名を超えるLINE社内の開発者向けに提供されているプライベートクラウド「Verda」は、60名のインフラエンジニアによって開発・運用されている。LINEがパブリッククラウドでなく、プライベートクラウドを採用している理由は、課題解決に関するイニシアチブにある。
「我々はプラットフォーマーでもあるので、課題一つひとつに対する責任を大きく捉えている。プロダクトチームと一緒にプロダクトを作っていく、開発者の技術課題を一緒に解決する、それらの課題を決して他人任せにしない仕組みを重視している」と三枝氏は語る。
この「課題解決を他人任せにしない」という姿勢は、VerdaにOpenStackを活用するなど、オープンな技術を選択するという技術選定にも表れている。
インフラの運用については、運用の自動化の取り組みはすでに行われていたが、まだ不十分だったという。
インフラのライフサイクルは数か月から数年、一方、開発ライフサイクルは数日から数週間、というようにスピード感にギャップがあった。そのギャップを解決するために、サービスが必要とするインフラの機能をソフトウェアで実装していく。これがまさに「Fast Lifecycle Infrastructure」というわけだ。
LINEではソフトウェアロードバランサがプロダクションで採用されている。今年の9月に不具合が見つかったところ、不具合に対して自ら原因を追求することができるようになった。これがハードウェアのロードバランサだった場合、メーカーにお願いして、といった具合で時間がかかってしまっただろう。
「インフラチームは、プロダクトの価値を早く届けるために、開発チームと一緒になって、短いサイクルでスピーディーに対応している」と語り、三枝氏のパートを終えた。
機械学習でLINE乗っ取り被害件数をゼロに
最後に、LINEのセキュリティとプライバシーの取り組みについて、サイバーセキュリティ室 室長の市原尚久氏が登壇した。市原氏は「LINEではユーザーのプライバシーを一番大事にしている」と言い、ユーザーのプライバシーを保護する取り組みを、「データガバナンス」「テクノロジー」「トランスペアレンシー(透明性)」の3つに分けて紹介した。
まずデータガバナンスについて、LINEでは積極的なデータ活用をする一方、法令遵守を重視し、サービスの企画の段階で法律の専門家などによる審査がされている。今回のイベントでの顔認証チェックインを例に挙げると、データの取得方法、利用内容、画面設計、利用規約、プライバシーポリシーなどが審査され、審査にパスしたものがリリースされる。そして顔の特徴データは国内のサーバーに保存され、イベント終了後に消去される予定だ。
次にテクノロジーについては、機械学習を活用したセキュリティを強化している。一時、話題になったLINEアカウントの乗っ取りは、怪しい行動するアカウントを機械学習で検知することで、2018年に被害件数を0にすることができた。スパム対策にも応用され、被害は減少傾向にある。
他にも、LINE Payでのマネーロンダリングのような金融犯罪の防止、台湾のフェイクニュース問題に対するファクトチェック機能などにも機械学習を積極的に用い、課題解決をしていることが紹介された。
また、パスワードに代わるオンライン新認証技術「FIDO」について、FIDO2も含めたFIDO標準の全てのプロトコルをサポートしている。これはサービス事業会社として世界初だという。
トランスペアレンシーについては、LINEでは、年に2回「LINE Transparency Report」を発表し、捜査機関からのユーザ情報開示・削除要請、メッセンジャーや通話における暗号化の適用状況などを外部に公開している。
さらにLINEでは、春にセキュリティ、秋にプライバシーをテーマにしたカンファレンス「LINE x Intertrust Security Summit」を開催し、世界の有識者を集めて議論をしている。サービスの脆弱性を公募する「LINE Security Bug Bounty Program」も行い、その脆弱性のレポートも公開している。
最後に、再度朴氏が登場し、「LINEを、アジアから出発したAIテックカンパニーとしてもっと進化させ、技術や経験を共有しながら世界を面白く作っていきたい」と来場者に呼びかけ、セッションを終えた。
