CodeZine(コードジン)

特集ページ一覧

あなたのプロダクトに「強い軸」はありますか? ぶれない意思決定のために、PMが押さえるべき3つの観点

プロダクトマネジメントの基本を学ぼう 第6回

  • ブックマーク
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2020/07/09 11:00

 みなさんのプロダクトでは、意思決定が一貫しているだろうか。例えば、営業とUIデザイナーで想定しているユーザーのペルソナが異なったり、同じアプリの中なのに担当しているプロダクトマネージャーが異なることで、エラー時の挙動が機能ごとに異なることはないだろうか。プロダクトに強い軸が通っていないと、チームのコミュニケーションコストが大きくなり、またユーザーから見てもUXがちぐはぐに感じられてしまうだろう。本記事では、プロダクトに携わる意思決定を一気通貫して実施するためのプロダクトの強い軸をつくる方法を解説する。

目次
前回記事

第5回「プロダクトの成長・衰退とともに変化する、プロダクトマネージャーの役割とは?

プロダクトを成功に導く、「プロダクトの強い軸」とは

 一気通貫した「プロダクトの強い軸」がないと何が起きるだろうか。例えば、意思決定の根拠が毎度異なるリーダーについていくのは非常に骨が折れる。プロダクトマネージャーの意思決定に一気通貫した軸がなければ、プロダクトチームの信頼を勝ち取ることはできないだろう。しかし、裏を返せば、一気通貫した意思決定の根拠となる軸さえプロダクトチームで共有できれば、チームの誰もが日々発生する小さな意思決定を正しく判断することができるようになる。つまり、「プロダクトの強い軸」を作り、共有し続けることで、意思決定の権限をチーム内に委譲することができ、スケールのできる強い組織になることができるのだ。

 また、プロダクトの強い軸は、プロダクトマネージャー自身にとっても自分の身を助ける存在となる。プロダクトの開発期間が長く、規模が大きい場合、自分が主体となって決めたことであっても、失念してしまうことがある。自分という存在も一貫性を失うことがありえることは覚えておいた方が良い。

 プロダクトの強い軸を図解すると、以下のようになる。

 まず、プロダクトの強い軸には、プロダクトで「どんな世界」を、「誰のどんな課題のため」に、「何によって作り出すのか」の3つの観点が必要だ。そして、プロダクトが実現する世界を「Core」、誰のどんなペイン・ゲインを満たす価値を提案するのかを描くための「Input」、そしてユーザーに提供する成果物となる「Output」の3つの要素に分解することができる。

 そして、この3つの要素は、プロダクトの強い軸を構成する要素としては並列の関係だ。3つの要素の違いは、プロダクトを捉えるときの抽象度である。プロダクトを一番遠くから高い抽象度で見たときには「Core」であり、最も抽象度を下げて見たときには「Output」となる。この3つの視点をそれぞれ解説していこう。

 まず、最も抽象度が高く、一番遠くから俯瞰してプロダクトを眺めた視点である「Core」は、プロダクトのビジョンやゴール、そしてそれを達成するための戦略を表す。そして、この「Core」は企業のビジョンや経営理念、戦略とも深く結びつくものである。プロダクトを開発するときには、ユーザーのほしいものをただ言われるがままに作るのではなく、プロダクトのビジョンを実現するものを戦略的に作っていくことが重要である。

 続いて、1つ抽象度を下げた視点が「Input」だ。これは、市場やターゲットユーザーから得られる知見を指す。そして、「Input」を研ぎ澄ますには仮説を構築し、検証することが重要とされる。この視点での仮説を構築するために、必要とされる成果物は、ターゲットユーザーとなるペルソナや、そのペイン・ゲインだ。この視点では特にプロダクトマーケットフィットを探すための積極的な仮説検証が必要となる。

 最後に、最も抽象度が低い視点、つまり最も具体的にプロダクトを捉えた視点が「Output」である。「Output」とは、ユーザーに届けるプロダクトの機能そのものだ。つまり、第2回で解説した「狭義のプロダクト」と同義であり、プロダクトが提供するUXやユーザーシナリオ、KPIなど、ユーザーに提供される成果物は「Output」に含まれる。

 まとめると、この3つの要素は、プロダクトの「Core」となる世界観を構築するために、市場やユーザーを観察し、分析することを「Input」とし、ユーザーに実際に価値を提案する成果物を「Output」するといった関係になる。

 では反対に、この3つの要素が検討されていないプロダクトは何が問題になるのだろうか。最もよく見る事例は、プロダクトを「Output」だけで捉えている事例だ。目の前の仕事に夢中になるあまり、プロダクトでどんな世界を作りたいのかという「Core」や、どんなユーザーのどんな課題を解決したいのかという「Input」をおざなりにして、目先の機能だけに意識が集中してしまうことがある。つまり、「Output」だけに集中してしまうと、内向きの視点ばかりになってしまい、プロダクトが本当に解決すべき大切なものを見失ってしまうのだ。

 また、チーム内でプロダクトの議論をしているときに、せっかく「Core」や「Input」について議論したのに、その成果物をドキュメントにしてプロダクトチームに共有せずに「Output」の検討に注力しているチームもある。「Core」や「Input」は議論をしているときにはチームメンバーで同じものを想定しているつもりになっていても、実際に言語化をしてみるとチームメンバー間での認識の差分があることに気付くことが非常によくある。この3つの要素を区切りとして、1つの要素の検討が終わったときには検討内容をしっかりとドキュメントに落とし込み、チームに共有することが望ましい。

「プロダクトの強い軸」の3つの要素の作り方

 ところで、この「プロダクトの強い軸」について解説すると、「プロダクトの立ち上げ時にのみ『Core』と『Input』を検討すればよい」と誤解されてしまうことがあるが、それは誤りだ。この「どんな世界を(Core)、誰のどんな課題のために(Input)、何によって解決するか(Output)」の3つの要素は、プロダクトの成長とともに常にアップデートをしていくことこそが重要だ。

 3つの要素を検討するための、「Fit」と「Refine」の概念を紹介しよう。まず、Fitとは「1つの要素を検討したあとに、抽象度が1つ高いものと適合しているのかを確認する作業」である。プロダクトに関わる人数が多くなると、機能についての議論が白熱すればするほど、なぜか、気付いたときにはユーザーの課題とこれから作ろうとしている機能が適合しないことが起きる。1つの要素を検討したあとには、目の前の成果物に執着をせずに、一度落ち着いて抽象度が1つ高いものと見比べることを忘れないでほしい。

 続いてRefine、つまり「洗練する」という作業は、Fitの反対で「1つの要素を検討したあとに、その1つ抽象度が高いものをブラッシュアップする作業」だ。例えば、「Output」の視点でプロダクトの機能を考えることを通してターゲットユーザーの理解が進み、「Input」を生み出すペルソナをより具体的に書くことができるようになることや、「Input」の視点でペイン・ゲインを検討することでマーケットの理解が進み、「Core」であるビジネスモデルをより洗練させることができるだろう。一度、抽象度を下げたからこそ見てきた視点を取り入れて、見える景色の解像度を上げて、ドキュメントをアップデートしていくことも重要だ。

 このように、FitとRefineを繰り返すことで3つの要素間でのズレを取り除き、3つの要素が目指す先を同じ方向に定め、プロダクト全体に一気通貫した強い軸を作ることができる。

 つまり、この3つの要素は、プロダクト開始時に一度並べたら終わりというわけではない。3つの要素のおおまかな仮説を立案し、素早く「Output」となるプロダクトを作ることも重要だが、プロダクトに強い軸が通っていると自信を持つことができるまで、抽象度を上げたり下げたりしながら、FitとRefineを繰り返していくことが必要だ。そして、プロダクトの開発が始まったあとであったとしても、プロダクトを構成する1つの要素を変更したときにはプロダクト全体に影響があることを忘れず、3つの要素が目指すゴールを見直し、同じ方向を向いていることを確認してほしい。


  • ブックマーク
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

著者プロフィール

  • 及川 卓也(オイカワ タクヤ)

     早稲田大学理工学部を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年...

  • 曽根原 春樹(ソネハラ ハルキ)

     Fortune500系外資企業に入社後、SE、カスタマーサポート、マーケティングなど様々な役職を日米で従事。その後シリコンバレーでプロダクトマネージャーに転身。B2B、B2C領域で米系大企業・スタートアップの双方でプロダクトの世界展開に携わる。現在はSmartNews社米国法人にて日本のスタートア...

  • 小城 久美子(コシロ クミコ)

     toC向けサービスを提供するWeb系企業に入社し、その後いくつかの企業で新規事業の立ち上げなどにエンジニア、スクラムマスターとして携わる。どう作るかより何を作るかに興味関心が移り、プロダクトオーナー/プロダクトマネージャーに転身。プロダクトマネジメントについてより深めるために、2019年よりTab...

バックナンバー

連載:プロダクトマネジメントの基本を学ぼう

もっと読む

All contents copyright © 2005-2020 Shoeisha Co., Ltd. All rights reserved. ver.1.5