コマースのオペレーティング・システム「Shopify」とは?
Shopify=オンラインストアというイメージを持っている人は多い。確かにShopifyは2006年、オンラインストアサービスとしてリリースされた。だが今ではビジネスの立ち上げから運営、成長に必要なすべてのeコマース機能とPOS機能を1つのプラットフォームで提供している。つまり実店舗、マーケットプレイス、ソーシャルメディアなど、ありとあらゆる販売チャネルで事業者とお客さまとの関係が維持できるサービスなのだ。
あらゆる企業規模のマーチャントをサポートするため、3種類のプランを用意している。最上位プラン「Shopify Plus」は、高成長・高負荷ブランド向けのソリューション。機能的な充実度はもちろん、手厚い人的サポートを受けられるという特徴を持つ。
本セッションではShopifyの活用において、3人の異なる視点の女性エンジニアがパネラーとして登壇。マーチャントの視点で語るのはイタリアンレザーのラグジュアリーブランド「BONAVENTURA」の社内SE、金原萌衣さん。Shopifyパートナーの視点で語るのはShopify Japanの黎明期からのパートナーであるフラクタのエンジニア、美里真理奈さん。オープンロジの中山茜さんは企業でも個人でもShopifyアプリに携わっているため、Shopifyアプリ開発者という視点で参加。Shopify Japan シニアローンチエンジニアの梅田志桜里さんがモデレータを務めた。
パネラーのプロフィールを紹介
梅田志桜里(以下、梅田):まずは自己紹介からお願いします。
金原萌衣(以下、金原):BONAVENTURAはイタリアンレザーの革小物をECと実店舗で販売しているブランドです。BONAVENTURAに入社してから、Shopifyによる公式オンラインストアのリプレースプロジェクトに社内SEとして携わりました。
2020年11月には日本初の旗艦店を開設し、同店舗にはShopify POSを導入。オンラインと実店舗でShopifyを2年半に渡って運用しています。Shopify Plusの良さは、マーチャントサクセスのサポートが専任に付いてくれるので、技術・運用の両面で手厚いサポートが受けられること。またShopifyの使いやすさを残したまま、Plusだけで使える機能も豊富に提供されています。D2C企業にとっては最適なプランだと捉えています。
美里真理奈(以下、美里):フラクタはブランドの立ち上げからブランド強化、デジタルトランスフォーメーション(DX)をテクノロジーとクリエイティブで実現するための事業を展開しています。その手段の一つとして活用しているのがShopifyです。
私は当社がShopify事業をスタートしたときからエンジニアとしてShopifyのストア構築に関わってきました。現在は社内メンバーの後方支援をしています。
中山茜(以下、中山):オープンロジはECサイトを運用する方向けの物流業務を代行するサービスを提供しています。そのソリューションの一つである、Shopifyと連携するアプリの開発に従事しています。また、2020年頃からShopifyのストア構築、アプリ開発に携わっており、現在、個人でもShopifyアプリを開発・運営しています。
企業のDXにShopifyの技術が貢献できること
梅田:モデレータを務める梅田です。Shopifyではストアを構築する際の技術的なサポートをしています。Shopifyに入社したのは昨年春。その前は日本の大企業のお客さまのERPの導入コンサルをしていました。それではここから本題に入っていきたいと思います。ここ数年、日本企業の課題としてDXが挙げられています。企業のDXにShopifyおよびShopifyを取り巻く技術はどのような貢献ができると思いますか。
金原:Shopifyに格納されている商品や受注、その他多くのデータを、各種広告プラットフォームや配送システム、分析システム・MAツール・Webチャットツールなど、多くのサービスに簡単にAPI連携することが可能です。それにより、これまで手動で行っていた多数の業務を大幅に自動化することができます。
Shopify POSを活用することで、店舗、ECそれぞれのお客さまの購買情報、および商品の情報を一元管理できるようになりました。このようにShopifyのおかげでDXが促進するとともに、スタッフの負担も大幅に軽減できました。
梅田:ShopifyはiPhoneのようにアプリを入れることで、機能拡張ができるようになっています。BONAVENTURAさんではそれをうまく活用されているんですね。ECや店舗事業者のサポートをされている美里さんはいかがでしょうか。
美里:Shopifyでは豊富な機能やアプリが提供されています。それをどう活用できるのかという考え方をすることが大事です。つまり業務にシステムを合わせるのではなく、業務をシステムに置き換えるのです。事例で説明します。沖縄県の米島酒造では酒瓶への名入れサービスを行っているのですが、以前はその彫刻内容について電話やメールでお客さまとやり取りし、見積もりから注文に至るフローでした。
この課題を解決するため、アプリを導入することでお客さま自身が商品ページ上で彫刻内容を入力して注文できるようにしました。実装の前段階で重要になるのが、要件をスリム化し、それをアプリに落とし込むこと。そうすることでシステムの導入も早くなり、自動化による省力化など、デジタル化の恩恵を十分に得られていると思います。
中山:オープンロジでは、Shopifyで作成された注文をオープンロジのサービスに取り込み、倉庫のシステムと連携する仕組みを作っています。注文が入ったら倉庫に連携し、発送完了メールの通知までをShopifyのAPIで自動化しています。具体的にはProducts(商品情報)、Orders(注文情報)、Fulfillments(発送情報)、Metafields(その他の情報)、Locations(保管場所情報)、InventoryLevel(在庫情報)を取得するAPIなどを活用しています。
さらにShopifyではWebhook機能を提供しており、注文や配送のキャンセル情報を自動で受け取ることが可能になっています。Shopify Plusを利用しているマーチャントは物流量が多いので、このようにまるごと物流業務をアウトソースしDX化することで、商品開発やストアの見せ方や業務に集中できるようになると思います。
コマース開発に携わるメリット、必要なスキルとは?
梅田:コマース分野のシステム開発はメジャーとは言えず、知見が共有されているとは言えません。あえてこの分野にエンジニアとして携わるメリットは何でしょう。また必要なスキルについても教えてください。
金原:コマース分野はモノを売るビジネスなので、どういうシステムなら会社の成長、顧客満足度の向上につながるかを考えやすい分野です。そのため携わるメリットは、ビジネスの視点でシステム導入について考えるスキルが身に付きやすいこと。私自身の成長にも寄与していると感じています。
必要なスキルの第一は、会社の実現したいビジネス要件を満たすシステムやサービスを追求する好奇心。第二にShopifyはすでに連携開発済みのシステムが多数存在しているため、既存のサービスをうまく組み合わせて活用していくスキルです。いずれにしてもIT、特にWeb分野に明るい人なら誰でもこの分野に入れると思います。
美里:コマース分野に携わるメリットは、Web全般の知識を得られることです。例えば米島酒造のサイトはWebフロント技術を使って、ECとは思えない動きのあるサイトとなっています。また制作パートナーとして複数の事業者と関わることで、すてきなブランドや商品に出会えること。特に弊社のクライアントの商材はギフトにぴったりな商品が多いので、ギフト選びのレパートリーが増えました。
必要なスキルはWeb全般のスキル。Shopifyでストアを構築する場合は、主にフロント技術を使いますが、より高度なカスタマイズを実装するプロジェクトでは、バックエンドとサーバーの知識も必要になります。そのほか、日々ECのトレンドをキャッチしたり、Shopifyのサービスや機能のアップデート情報を確認したりすることも大事だと思います。
中山:コマース分野のシステム開発に関わるメリットは、すでにお二方のおっしゃるとおり。必須スキルについては、Shopifyアプリ開発の観点だと、バックエンドの基本知識と、アプリやストアのフロントを作るためのフロントエンドの知識が必要です。
特に新しいShopifyの機能はReactを前提として作られていることが多いので、Reactの知識があるとスムーズに始められると思います。このような技術スキルも大事ですが、コマース分野でスキルを磨くには、日頃からオンラインサイトを利用する際に、「このサイトは購入完了するまでが非常にスムーズだった」「もっとカートをこうすれば離脱率が下がるのでは」というようにUI/UXの観点を持つことだと思います。
今後、どんなキャリアパスを描いているのか
梅田:最後に、これからのコマース業界でのキャリアパスについてどういう風に考えているのか教えてください。
金原:技術がきちんとわかるマーチャントサイドの社内SEを目指しています。ECサイトのお客さまやマーチャントサイドには女性が多い一方で、その開発をサポートするベンダーやITサービスプロバイダの技術担当者は男性が多い。だからこそ、技術をしっかり理解し、女性ならではの視点を実装にまで取り入れられるようにするには、技術を理解した社内SEになることが不可欠。そういう存在になれるよう、これからも成長していきたいと思います。
美里:私は子どもがいるので、今後は育児経験を生かした活動ができればと思っています。例えばShopifyのストア構築アプリの開発であれば、自分の体験を基に育児中のパパ、ママ向けの機能やUIを考えていく。事業者さまだけではなく、エンドユーザーの生活も豊かにできるDXプロジェクトに参画したいですね。
中山:Shopifyのアプリ開発者は場所を選ばずに働けます。つまりワークライフバランスのとれた働きができるのもアプリ開発者の良さ。その働きやすさを生かして、これからもShopifyアプリをリリースし、配送や物流のDX・効率化に貢献できるエンジニアを目指していきたいですね。
梅田:今回、3人の女性エンジニアのディスカッションを聞いて、Shopify Plusでストアやアプリを開発してみたいと言う方は、ぜひ、Shopifyパートナープログラムにアクセスしてください。コマース分野はお客さまに女性が多いからこそ、女性エンジニアが活躍できるフィールドだと思います。